重たい。
 鍵盤に乗せた指は弾きたくないと喘ぎながら渋々動き出す。
 自分が卑屈になっているのはわかる。父親が偉大なピアニストであるのは事実だから、それを認めて誇ればいいのに、わたしはそれをできずにいる。要するにまだ、反抗期は続いているんだろう。

 昨日の夜、いつもより少しだけ遅く帰ってきたわたしだが、ママは何も言わなかった。レッスンを仮病で休んだなんて、言う必要もない。
 寝る前に鍵盤に向かった。今日聴いた音を、自分が思ったように弾いてみた。
 クラシックとは異なる音の動き。柊の奏でた生きた音色。それはまるで、寄せては返す、波のよう。
 ふぅ、と息をつく。

 ……何、自棄になってるんだろう。

 明日、どんな顔して柊と会えばいいんだろう。どういう風にグラン・デュオを奏でればいいんだろう。
 せっかく、柊がわたしのために連れて行ってくれたのに。逃げるように帰ってしまった。
 飛び出した自分に非があることは事実。周囲から鏑木壮太の娘として期待されているのもまた事実。だけど。