【コミカライズ化】異世界で絶倫魔導師に買われたらメチャクチャ溺愛されています。

7.押しかけ小間使いです!美形無罪!

 銀糸の髪をしたイケメンに、凛はしっかりと抱きしめられる。
 単に彼は、転びそうになった凛を助けただけに過ぎない。
 しかし彼と触れ合った部分から、不思議な力が流れ込むのを感じた。

 そう、なぜか確信的に。
 彼は、なにかが特別だと感じてしまった。

「あ、あなたは……」

「私はパーシヴァルだ。そなたは?」

「私は……凛……です」

 声にならないほど小さく、凛は自分の名を告げた。
 するとパーシヴァルが、目映いばかりに艶やかな笑みを見せてくる。

「リン……可愛い名だ」

 それだけで、リンの胸がドクンッと跳ね上がってしまう。

(あまりに美形過ぎて、私の心臓が止まっちゃいそう! 私が死んじゃっても美形無罪!)

 アワアワするリンの肩を、パーシヴァルがぎゅっと抱きしめた。
 そのまま賑わっているバザールへと歩いていく。

「大丈夫か?」

「は、はぃ……」

(ううっ……心配げな憂い顔もステキ! どうしよう、奴隷を買うようなひとなのに、まったく悪そうじゃないんだもの)

 パーシヴァルが辻馬車を拾い、リンを先に乗り込ませた。

(助けてくれたのはありがたいけど、どこへ行くのかな?)

 奴隷売買人の言葉が、脳裏に蘇る。
『昼は召使い、夜は性奴隷――――』

(まさか、こんな女性に困ってなさそうなひとが、わ、私を性奴隷なんてっ……)

 向かいの席に腰掛けるパーシヴァルを、そっと上目遣いで見る。
 彼は小窓から、御者になにやら指示をしていた。

「ランスの森まで頼む」

「旦那、ランスの森といっちゃあ……」

「わかっている。手前まででいい」

 安堵したように、御者がほっと息を吐いた。

「行くのはいいんですが、帰りが怖いんでねえ。魔物が出るという噂だし」

 魔物が出るというランスの森。
 そこへ行くというのだろうか。

 リンには、ランスの森という場所が、とても怖いところに思えた。
 背の高い木々の梢や枝葉が渦巻いており、太陽の光が届かない鬱蒼とした森は。
 薄暗いそこは、魔物が棲むにはふさわしい場所で、人間が一歩でも足を踏み入れると、すぐに襲われてしまう。

 殺風景なまでに生い茂った木々がどこまでも続き、足もとはぬかるみ、歩くことすら困難で――

(待って、待って! そんなところに、連れて行かれる理由がわからない)

(人目のない場所で、私のことを、あれこれと……ひぇぇぇぇぇ……)

 イケナイ妄想が、リンの頭の中をモヤモヤと渦巻いていく。

(ど、どうしよう……いくら美形でもそれは、ちょっと……)

 チラリとパーシヴァルの様子をうかがい見てみる。
 彼は腕と足を組み、無表情で目を伏せていた。

「あの……」

 彼が瞼を開けると、またしても美形の光でリンの目が眩みそうになる。

(間近で見ちゃいけない顔だ。ほんとうに……イケメン過ぎる、イケメン無罪……)

 リンは気を取り直し、心配ごとを問う前に、まずは礼を言うことにした。

「助けていただきまして、ありがとうございます」

 小さくペコリと頭を下げる。
 しかし彼からはなんの返答もなかった。

(ん……? なんか、やけに冷たくない?)

「私、リンと言います」

「それは先ほど聞いた」

 リンはきゅる?と首を傾げる。

(ん……? なんか、やけに機嫌が悪くない?」

「ええと……ランスの森……という場所に向かうのでしょうか?」

「いや、そなたは途中で下ろしてやる。希望の場所を言うがいい」

「え?」

 パーシヴァルは困ったように、銀糸の髪をカリカリと掻いた。

「……まったく、せっかく城下町へ買い物に行ったのに、余計なものを買ってしまったな」

「ええと……もしかしてパーシヴァル様は、私を買うつもりではなかった……と?」

「そうだ。鈍くさい娘が悲壮に思えたから、つい助けてしまった。飛んだ出費だな」

「そうだったんですか……」

 性奴隷を買うようなひとに見えなかったリンの勘は、ある意味あっていた。
 しかし途中で放り出されてしまうのも困る。

「私の身の回りの世話をする小間使いを探していたというのに」

「小間使い?」

「ああ。住み込みで働いてくれるひとをね」

 住み込みと聞いて、リンはすぐさま精一杯の挙手をした。

「それ、私じゃダメですか?!」

「ダメだ」

「えっ……」

 即答で却下されて、リンはガ―――――ンと落ち込んでしまう。

「悪いが男所帯だ。女の子は求めていない」

 だが、ここで「はい。そうですか」と諦めてはいられない。
 なにしろ、行くあてもなければ、知り合いだっていない。
 トドメの一文無しで、路頭に迷うしかないのだ。

「あの、私、実はお金がまったくなくて……」

「そうだ。思い出した」

 パーシヴァルが胸のポケットから、ジャラリと音を立てて革袋を取り出す。

「これだけ取り戻しておいたぞ」

「それは男の子に盗られた……」

「服は売ってしまったあとだった。もしかすると金も多少は手をつけていたかもしれんが、まあ多少は我慢してくれ」

 凜の膝の上に、革袋を置く。

(ごめんなさい……ごめんなさい……)

 凜は思わず泣きそうになってしまう。

(一瞬でも、一ミリでも奴隷を買うようなひととか思ってごめんなさい……すごく、いいひとなのに……)

「私、決めました!」

「なにを? 馬車から下りる場所か?」

「いいえ!」

 凜は、鼻をふんすっ!と鳴らし、意気揚々とこう言い切った。

「パーシヴァルさまの小間使いとして働きます! だれがなんと言おうとも!」
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