捨てられママでしたが、天才外科医に独占欲全開で溺愛されています
お昼を過ぎても出てこない。

俺は近くの自販機でお茶を買い待ち続ける。

4時になり、買い物に行くのか千佳が子供と手を繋ぎながら出てきた。

「千佳…」

「昌也。」

千佳の子供はやっぱり男の子だった。
目がクリッとしており可愛らしい男の子だ。

千佳がマンションへ引き返そうとするが子供が俺を指差して「あー!」という。

千佳はその光景に怯んでいるのがわかった。

「千佳。ちょっとだけ話せないかな?」
俺はできるだけ穏やかに話しかけた。

「あれからずっといたの?」

「うん。今日は絶対に話したいと思って。」

「そう…。そこの公園でいい?少しだけなら…。」

「もちろん。子供、なんて名前なの?」

「智也…」

あ、名前…
まさか俺の一文字とってくれてるのか。

間違ってなければ…


「ともやくん、こんにちは。」

「あーい」

「一緒に公園に行っていい?」

「あー」

千佳は智也の手を繋ぎ歩き出した。

この前見かけた、マンションのそばにある公園に向かった。

歩いているとふと智也の手が俺に伸びてきた。
俺と手を繋ごうとしているらしい。
それに気がつき手を繋ぐと千佳が驚いた顔をしていた。

俺は智也から伸ばされた手を握り、不覚にも目元から涙が出てきてしまった…。

慌てて目頭を押さえ涙をなんとか抑えた。

智也の手はとても小さくてぷくぷくしていて、温かかった。

公園に着くと千佳は砂場へ向かった。

夕方の公園は人混みもまばらで砂場は誰もいなかった。

カップやスコップを取り出し智也は遊び始める。

「千佳。何度でも謝らせてほしいんだ。故意に連絡を絶ったんじゃない。でも結果として忙しさを理由にしてはいけないが千佳に連絡ができなかった。でも千佳を待たせていると思い必死で勉強してきたよ。3年はかかると言われてたけど寝る間も惜しんで技術を磨いてきたよ。」

「頑張ったんだね。」

「千佳を待たせてると思ったから。千佳に会いたかったから。」

「私は連絡が取れなくなって、そういうことだったんだと思った。」

「そういうことってなんだよ。俺は千佳に嘘は言わない。付き合う時も俺を信用できるまでは付き合わなくていいって言った。半年待った。」

「うん。信用してた。待てると思ってた。でも待てなかった。」

「もうダメなの?この子、俺の子だよね。」

「違う。私の子。」 

「誰との子?」

「私だけの子。」

「千佳…。俺さ、甘えてたんだよ。千佳は待っててくれるって。2年も連絡しないでいたのに待っててくれるって思うなんておこがましいよな。どう考えても音信不通の男を待てるわけないよな。でも俺勝手にそう思ってた。千佳のこと
を俺はずっと考えてたから、千佳のことを想ってたから。だから繋がってるって思い込んでた。」

「私が昌也を本当に必要とした時に、携帯が使われてませんってメッセージを聞いてどれだけ傷ついたか分かる?私も昌也を待っているつもりだった。でも時間だけは待ってくれなかった。昌也を頼りたくても唯一の手段だった携帯が繋がらないの。使われてなかったの。」

「うん。」

「私には昌也を待つ時間はなかった。昌也のための時間はもうなくなったの。私が捨てられたと思うしかなかったし、時計の針は動いてるの。」

「俺は千佳を捨ててない。」

「それは後からなんとでも言える。私は昌也が大変な思いをしてボストンに行くことも分かって送り出してたよ。けど2年だよ。全く連絡のない人を2年待つの?」

「本当にこれだけは謝ることしかできない。千佳をいくら想っていても行動しなければ意味がない。ましてや千佳が一番大変な時に俺が支えられなかったことがたまらなく腹立たしいよ。」

「私はもう智也と2人で静かに穏やかに暮らしたいの。もう昌也に振り回されたくないから仕事も辞めたの。昌也もボストンで頑張ったんだね。最後に昌也の仕事が見れてよかったよ。前にも増していいドクターになったね。これからも応援してるね。」

「どういうこと?」

「これでおしまいってこと。」

「ダメだ。終わりにしない。」

「私の中では終わってるってこの前も話したよ。私の時計は進んでるの。もう昌也とは針の進み方が変わっちゃったの。」

「時計の針はいつかはまた重なる。それが今だ。」

「私の時計とは重ならないの。ごめんね、待っててあげられなくて。」

智也を連れて帰ろうと声をかけた。
「智也、帰ろうか。」
するとカップに砂をたくさん入れていたのを渡してきたので、ありがとう、と受け取り食べるマネをした。

私の後に昌也にも渡していた。

昌也は受け取りカップをじっと見つめていた。

「どーど」
と言われ、昌也もありがとうと言い食べる真似をした。

すると昌也は智也を引き寄せ抱きしめた。

目から涙が溢れておりびっくりした。

智也も抱きしめられ驚いたようだが昌也の頭を撫でている。

「昌也…。」

「ごめん。ごめん…」

「もういいんだよ。昌也はもう傷つかなくてもいいし、謝らなくていいの。」

「でも…」

「私たちのタイミングが合わなかったの。でも私は昌也に感謝してるから。」


智也を授けてくれたことを…


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