「あなたの、お名前は?」

「人はみな、シンデレラと呼びます」

「では、質問を変えましょう。あなた自身の、お名前は、なんと言うのですか?」


7月の終わり。
夏休みに入ってから、一週間ほどは経った今日、台本の読み合わせが教室で行われた。

教室の机を四角形になるように設置にて、主役の二人が体格になるような座席配置。
小百合ちゃんと視界に選ばれた3人のクラスメイトの進行のもとで、とりあえずセリフだけを一緒に読んでいる。

画面の向こうの世界でしかなかった、演劇の練習風景がそこにはあって、私はわくわくしながら少し離れたところから見守っていた。


「『ミラ』といいます。……あなたの、お名前は?」

「『リュカ』。どうぞ『リュカ』とお呼びください」


 逃避行の途中で王子を助けたシンデレラが、山小屋で共に一夜を過ごす場面。
台本が配られてまだ日が浅いから、役者陣はセリフこそ暗記できていない状態だけれど、きちんと読み込んでくれているのか、みんな素人とは思えない上手さだ。


 特にシンデレラのこころちゃんと、王子様の浅岡くんは、演技経験ゼロと言うのが考えられないくらい、役にはまっていた。

こころちゃんの鈴を転がしたような声と、浅岡くんの柔らかで落ち着いた声の相性は非常に良かった。


 さすが私、と心の中で自画自賛したのは言うまでもない。

 ここまで私の理想通りに演じてくれるとは、正直思いもしなかった。


「あの二人、息ぴったりだね。練習初日には思えないんだけど」


 隣で同じく、稽古の様子を見守っていた小春がそっと耳打ちしてくる。私はそれに大きくうなずいた。


演者の練習日程、および裏方の作業日程は夏休みが始まった二日後にクラスラインに流れてきた。

もともと演劇部のシンデレラとは違う描写をいくつか入れたので、裏方の作業量は当初の予定より増えたという話を聞いた時は心苦しかったが、「こういうのも青春だよね」と、小春を含めた裏方のクラスメイト達はまったく気にしていない様子で救われた。


今日は裏方の作業日ではないということで、私たちの他にも、稽古の様子を見学に来た者たちがいた。
みんなこういう場に集うのは初めての様で、なるべく息をひそめていた。


「浅岡くんを抜擢した麗司くんは、先見の明があったね」

「台本がいいんだと思うよ。あそこまでハマってるってことは、ふたりが感情移入しやすいんじゃない? さすが、実祈先生だね」


小春の手放しの賛辞に、私は素直に喜んだ。


我ながら、よくできたとは思う。

台本を読んだ小春ちゃんからは直接「すごく素敵だったよ! 私、頑張るね」とメッセージが届いた。
「名前」をキーワードにするところから生まれた物語だったから、こころちゃんには「協力してくれて本当にありがとう」と感謝を認めた返信をした。