あんなことになるまでは、よく出勤前のお母さんに頼んでヘアアレンジをしていた。

どこかではまだ「女の子」でいたくて、髪は伸ばしていたけれど、「かわいくありたい」と思うことはなくなっていた。


「ヘアアレンジ、してほしんだけど」


 高校生にもなってこんなことを頼むのは気恥ずかしかったが、お母さんがやってくれた方が何倍もよく出来上がることは知っていたので、恥を忍んでダメもとで頼んでみると、お母さんはウキウキとヘアアイロンに櫛、どこに隠していたのかいろんな種類のヘアアクセサリーを出してきた。

出勤まで時間もないから「簡単でいいよ」と言えば、「じゃあ、シンプルなのにする」とウォーターフォールでハーフアップにし、結び目をパールとビジューのバレッタで留め、毛先を軽く巻いてくれた。


 髪型一つ変えるだけで、こんなにも気分は変わるのかと、不思議に思った。

色づきリップを施せば、いつもよりもいくらか血色がよくなった。


 だから、少し勇気が出た。


「近いうちに、話したいことがあるの」


 ばたばたと準備をして仕事に行く支度をするお母さんに、伝えると、お母さんは真剣な表情で頷いて、「明日は必ず見に行くからね」と私の頬をなでて家を出て行った。

 一歩ずつ、少しずつ。

 私は確かに、前に進めている。