好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~

後悔…遥

「迷惑をかけて、すみません」
携帯を耳に当てたまま、俺は頭を下げていた。

電話の相手はうちの社長である陸仁おじさん。
普段はナンパで、お調子者で、恋多き男で通っているくせに、仕事となると頑固で融通の利かない鬼社長。俺が尊敬してやまない上司。
その人が、今日はやたらと優しく声をかけてくれる。

「何も気にする必要はない。今は萌夏ちゃんの心配だけをしていろ」
「しかし、今日はアメリカからの視察が」
「ああ、それは空に行かせる。あいつも春までかかわっていた案件だし、先方との面識もあるはずだから上手くやるだろう」

確かに、空と雪丸に任せておけば心配はない。

この春からうちのメイン企業であるHIRAISIに異動になった空は、数年後俺がHIRAISIに行くのと入れ替わりに平石建設の副社長として戻ってくる予定になっている。
今はそのための準備期間で、平石建設の取締役としての肩書を持ったままの出向扱い。
きっとこんな時のために、おじさんや父さんがそう仕組んでいたんだろうと思う。

「それで、萌夏ちゃんの消息はつかめたのか?」
「いえ、まだ」
「そうか」

昨日の朝、萌夏が家を出てからすでにまる1日。
その間携帯もつながらないし、メールも既読にならない。

「心配だな」
「ええ」

今更取り繕う元気もなく、俺は声を落としたまま頷いた。
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