手が(かじか)むほど冷えた、深夜の旧時計塔屋上。

そこに、1人の人間が立っている。足場ギリギリのところで、私に背を向けて空を仰いでいた。

私は息を切らしながら、その背中を見つめる。

「どうして……?」

私の問いに、その人が振り向いた。

背後には、あまりにも大きな満月。その逆光のせいで顔が見えず、どんな表情なのかもわからない。

その人は、小さな声で私の問いに答える。「ゆるせないから……」と、辛うじてその部分だけは聞き取れた。

そして向き直り、ゆっくりと前のめりに倒れていく。

姿が見えなくなった少し後、ドンという鈍い音と共に何かが潰れる音が響いて。

私は、1つの命が消える瞬間を見てしまったんだ。

***

深い眠りを遮ったのは、窓から差し込む朝日だった。

私は重い上体を持ち上げて辺りを見回す。また床で寝てしまったせいかな、頭が痛くてたまらない。昨日よりも痛みが増してる気がするし。

その頭痛に加え、今見た不気味な夢のせいですごく気分が悪い。このSに閉じ込められてから、毎晩見せられる"誰か"が死ぬ夢。

今日は、人が落ちる直前の場面だった。昨日は人が落ちた直後、一昨日は死体の側で泣いていた場面。

夢を繋げると、死体を見た瞬間から遡って死の経緯を見せられているように感じる。

あれがただの夢でなく、本当に死んだ人の最期だとしたら……死んだ人は自ら飛び降りた。つまり、自殺であるということ。

それなら、どうしてシェアメイトを恨んでいるの?「ゆるせないから」……死んだ人が呟いたその言葉は、いったい誰に向けた言葉なのだろう。

……これ以上思い出せる気がしない。

時計を見ると、午前7時。もう、死んだ人の殺害は終わってる時間だ。どうやら、私は『今日を生きる』権利を得たらしい。

ほっとしたのも束の間、昨夜に奏ちゃんが私の部屋に訪れた時の恐怖が蘇ってきた。何度もドアノブを回し、苛立ちを見せていた奏ちゃん。

そういえば、彼女は屋上から死体を見たって言ってたっけ。

今の夢にも昨日の夢にも、奏ちゃんがいたかどうかがわからない。もっと鮮明に周りの状況が見えていたらよかったんだけど。