信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています
すれ違い

まさか!


 樹の滞在は3週間を過ぎた。
8月に入ると、流石に東京からの連絡が頻繁になった。
そろそろ、樹は仕事に戻らなければならない様子だ。

 樹も焦ってはいた。健康は回復したし彩夏との関係も良好だと信じていた。
ただこれからの生活についてだけ、まだ彼女と話し合っていなかったのだ。
何しろ互いに仕事がある。樹は責任ある仕事だし大勢の社員を抱えている。
彩夏は生き物を相手にする職業だ。
どこに接点を置くのか、樹には答えが見つかっていない。
彩夏にこの話を振ると、また離婚を言い出しそうで正直怖かった。

 仕事では非情になれても、彩夏の事に関しては臆病になる。
あの離婚届を渡された日の衝撃は忘れられない。
この数週間で漸くこれまでの無彩色な世界から、
彩夏の住む色鮮やかな世界に移り住むことが出来たのだ。
もう、この暮らしを失いたくなかった。

樹は彩夏との暮らしをどう維持するか、二人で話し合う事を先送りしていた。


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