信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

「ホントにごめんなさい。」

頭を下げながら、彩夏は皆に詫びて回った。
自分の不注意で大騒ぎとなり、随分迷惑をかけてしまった。

「そうですよ、彩夏さん、連絡くれなきゃ心配しますでしょ。」
「申し訳ありません、真由美さん。」

「でも、ご無事で何よりでした…。」
真由美は小さい子供にする様に、ギュッと彩夏を抱きしめた。

「江本さんもせっかく夏休みで牧場へ遊びに来てくれたのに…
 駆のお守ばかりさせてしまったんじゃないかしら…。」

彩夏は江本の手を握り、謝罪した。

「いえ…。」
「そう言えば、駆は?寝てる?」

皆がお互いに顔を見合わせた、
誰が口火を切るか、目線で譲り合っている。

その時、大階段の方から駆の声がした。
「マーマ!」

彩夏は声の方を向いたが、そのままその場に固まってしまった。

「樹さん…。」

周囲の人達は、そっとその場を離れて行った。
ただ、江本だけが小さく囁いた。

「申し訳ございません。社長に全て、お話してしまいました。」

江本も、その言葉を告げると、奥の方へ下がって行った。

広い玄関ホールには、親子三人が残された。


「無事で良かった…。」
「心配してきて下さったの…。」

「ああ、江本から連絡をもらったんだ。」
「そう… 駆、ママの所へおいで。」

樹の腕から、駆を受け取ろうとしたら、意外な事に駆が嫌がった。

「パーパ!パーパ!」

樹の胸に抱かれたまま、彼のシャツを握って離さない。

「駆、ママの抱っこだよ。」
もう一度、駆に声を掛けた。
彼は今度はブンブン首を左右に振って、嫌だと意思表示している。

こんな事は初めてだ。彩夏は駆に手を伸ばしたまま、途方に暮れた。
早く樹から子供を離したいのに、肝心の駆が言う事を聞かない。


< 75 / 77 >

この作品をシェア

pagetop