『ねぇ、梶谷君』【現代・短編】
「これ、何?」
「ふ?へぇ?」
 突然背後から話しかけられて、思わず変な声が出た。
 校舎裏には、今は使われていない古い部室棟がある。その裏の小さな花壇。
 生徒は誰も来ないような場所に、園芸部の花壇があるのだ。
 生徒が誰も来ないような場所にわざわざこうして足を運ぶってことは、目的は一つ!
「あ、あの、もしかして入部希望ですか?」
 手にしていたシャベルを土に突き刺し、勢いよく立ち上がる。
 声の主は背が高くて色の白い男子生徒だ。
 運動部所属には見えない線の細さ。そこそこ整った顔をしているけれど、なんだか弱弱しい印象を受ける。
 園芸部って、運動部じゃないけれど、重たい肥料を運んだり、暑い中草むしりしたりと結構ハードだけれど大丈夫かしら?
 いや、心配してどうする!
 入部希望者なら、誰だってウエルカムじゃないか!
 たとえ、肥料が運べなくたって、暑い日には出てこられなくたって……。
 ゆ、幽霊部員だって……。
「あ、私、園芸部の部長をしてます、由岸里香。2年生です。2年生なのに部長してるのは、3年生の部員が一人もいないからで……2年生も、私一人だったりするんですけど……新入部員は、ま、まだ5月だし入ってくる可能性もあると……」
 あああ、落ち込んだ。
 自分の言葉に、落ち込みました。
 そうです。園芸部といいつつ、近年では「虫がいやぁ」とか「日焼けしちゃうしぃ」とか「夏休みに水やりとかマジ無理だから」とか……入部希望者が激減。
 昨年2人いた先輩が卒業してからは、私が最後の部員になっちゃいました。
「ごめん、入部希望じゃないんだ」
 あ、そうですよね。
 じゃぁ、何しに来たんだろう?
「何か植えてみたいって思ったんだけど……ダメかな?」
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