その日、私はバルドゥルさんと一緒に街へ向かっていた。

「緊張していますか」

「それは……まあ」

馬車で向かいにあって座る彼に、ぎこちなく笑い返す。
獣人たちの前で人間の私が話すのだ。
緊張するなという方が無理だ。
しかも、私のスピーチにバルドゥルさんの選挙結果がかかっているとなると……昨晩は、ほとんど眠れなかった。

「その、本当に首輪をしなくていいんですか」

村を出る、というのに私は首輪をしていない。

「はい。
チハルさんは奴隷ではないので、首輪は必要ありません」

静かに、バルドゥルさんは頷くけれど。
人間の首輪は誰かの所有物であるという証明と共に、第三者に襲われない安全の保証でもあるのだ。
首輪なしで街へ行くのに、不安がないわけじゃない。

「信頼のおけるものたちに、チハルさんの護衛をお願いしてあります。
チハルさんの身の安全は私が保証しますよ」

「……わかりました」

私が安心するようにか、バルドゥルさんは微笑んでいる。
彼がそういうのなら間違いないのだろう。