溺愛まみれの子づくり婚~独占欲強めな御曹司のお相手、謹んでお受けいたします~
ふたつの痛み

 私が結婚を承諾してからの部長の行動は早かった。

 桐ケ谷エステートは火曜と水曜が定休日なのだが、火曜日にさっそく私のアパートを訪れたかと思うと、さっさと引っ越しの手配をしてしまった。

 大家さんや仲介業者への根回しも彼が全部済ませてくれて、私は必要な荷物だけを持って、例のマンションに転がり込めばいいらしい。

 家具はすべて新居にあるそうなので、私が持っていくのは衣類や化粧道具、そして両親を祀っている小さな仏壇くらいだ。

 仏壇は本来ならお寺にお願いして引っ越し前後の供養をした方がいいらしいのだけれど、私にはそんなお金も時間もない。

 結局は供養する側の気持ちの問題だと思うので、荷造りの前に自分でお経を唱え、『すごいマンションに引越しするからね』と両親に伝えてから、丁寧に仏具を梱包した。

 入籍の準備もあっという間に済ませ、水曜の朝、彼が代表で区役所に提出してくれた。

 休み明けにも職場のみんなにも発表するのだと、部長は意気込んでいる。さらに土曜日の夜には、彼の家族にも会う予定だ。

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