溺愛過多~天敵御曹司は奥手な秘書を逃さない~
暴かれた黒歴史
ここは、都内でも指折りの超高級ホテルの最上階にある展望ラウンジ。
視界を阻む物なく、東京の夜景をグルッと三百六十度一望できるのが売りだという。
煌びやかな夜景が堪能できるため、特に金曜日の夜は、仕事帰りのデートの、最後の行き先として人気があるそうだ。


需要への供給なのか、今、ラウンジの照明は意図的に抑えられていて、ムーディーな空気が漂う。
優雅にお酒を楽しんでいるのは、どこから見てもセレブっぽいカップル客ばかりだ。


そんな中――。
私、平川(ひらかわ)茉帆(まほ)は、遊び心も色気もない、仕事中の堅苦しいスーツ姿で、カウンター席にいる。
隣に並んで座っている、白いワイシャツにスリーピースのベスト、ブルーのストライプのネクタイ姿の男性は、私が勤務している会社の若き社長。
そして私は、彼の秘書。


つまり、周りの客と同じセレブなのは彼だけ。
もちろん、カップルじゃない。
ただの『ボスと部下』それだけだ。


社長がカウンターに頬杖をつき、スコッチグラスを揺らしながら、小首を傾げてこちらを見遣ったのが、目の前に広がる窓ガラスに映り込んだ。


「まさか、君。俺が、気付いていないとでも思った?」


いたぶるような目つきと質問に、私はゴクッと唾を飲んだ。
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