とろけるような、キスをして。

甘い香り




「いただきます」
「いただきます」



 二人で手を合わせて、カウンター前にある椅子に横並びに腰掛けて食べる。


一人暮らしにダイニングなんて必要無いから、と先生はこの対面キッチンのカウンターをテーブル代わりにしているようだ。


 ほかほかのご飯とデミグラスソースがかかったチーズインハンバーグ。付け合わせにはポテトのソテーとにんじんグラッセを。コールスローサラダも申し訳程度に添えて、ハンバーグプレートにした。



「うまっ!やば、うまっ」



 先生はずっとそればっかりで、すごい勢いで食べてくれた。


私はそれを横目にいつも通りのペースで食べる。



「……誰かに手料理振る舞うのなんて、初めてかも」



 ポツリと呟いた言葉に、先生はこちらをじっと見る。


 それは、驚きの表情……かな?



「私の手料理、食べたの先生が初めてだね」



 もう一度言うと、嬉しそうに顔を綻ばせる。



「おいしい?」



 改めて聞くと、口いっぱいにハンバーグを頬張っていたからかうまく喋られなかったようで。
何度も頷いて"美味しい"と教えてくれた。


食べた後、食器やフライパンを洗ってくれた先生。


慣れた手つきで洗ったお皿を拭いて食器棚に戻していた。


 私も手伝おうとしたら拒否されて、家主に"テレビでも見てて"と言われてしまえばそれに従うしかない。


 普段は見ない夕方の地方局の情報番組を見る。


今話題のお店とそのメニューが紹介されていくものの、なんだか落ち着かなくて内容は全く頭に入ってこない。


食器を洗い終わった先生は、お風呂のお湯張りのボタンを押してから私の隣にそっと腰掛けた。


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