茨ちゃんは勘違い

放課後○○倶楽部

─五月。

暖かいというより、少し蒸し暑さが訪れていた。

それにしたって、蝉の合唱が始まるにはまだ早い。

いくら異常気象が進んでいるからといって、半袖にするのだってもう少し後だろう。

精々冬服のブレザーを脱げば済む程度の事。

それに今日の天気は極めて悪く、どんよりとした曇り空だったので、全くその必要は無いに等しい。

だから、彼女達──白石百合絵と城山茨──の格好は、季節に少し不釣り合いな気がした。

「…。」
「…ゔ~~…。」

二人とも紺色に縦の白いラインが二本入った水着に、ローブを羽織って麦藁帽子をかぶっている。

百合絵は、抜群のプロポーションを誇る上に美人なので、例え競泳水着だろうと絵になるのだが、茨は(以下略)。

滴る水を拭いもせず、ローブの上に大きめのタオルを巻いて、二人は水中で奪われた体温を取り戻すように、小刻みに震えていた。

さっきから眼前に広がるプールという名の拷問場では、男子と女子に別れて各々の泳法で往復を繰り返している。

「ゆゆゆゆゆ、百合、絵、ぢゃ~~ん゙……ざむいよ゙~果てしなくざむいよ~。」
「…。」

茨の泣き言には応えず、ただひたすらに百合絵は寒さを堪えた。
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