託宣が下りました。
第四話 お約束はできませんが、――。
 初めて、星の祭壇に登った夜――。

 満天の星に見下ろされた瞬間、それまでの醸成された緊張がすべて解け、解放された気分になったのを覚えています。

 たくさんの観客が集まっていました。ゆうに千はいたでしょう。その中には大層なご身分の方もたくさんおいでになりました。後ろのほうには、一般人もたくさん。

 それらの目が一斉にわたくしを見ていたのです。
 普段なら、恐ろしくて逃げ出したくなったに違いないそんな状況も――

 ふしぎと、あのときは恐くなかった。

 ひざまずき、胸の前で手を組み合わせ、祝詞を捧げ……
 偉大なる星の声が聴こえるように、心を研ぎ澄まし。

 そして。

 ――降りてくる。先輩巫女の方々がいつも遣うその言葉は、まさしく真実でした。

 わたくしは体の力をぬき、すべてを任せました。降りてきた『何か』が、わたくしの体を使い託宣を告げる。そうとしか言いようがないあの感覚。

 体が自分のものではなくなる。口から出る言葉が自分の意図したものではない。

 それなのに恍惚として、このままその『何か』に、何もかもを捧げたくなる――。 

「騎士ヴァイス・フォーライク、巫女アルテナ・リリーフォンスの間に生まれし子は、国の救世主となるだろう」

 観衆がざわめくのが聞こえました。

 それでも、わたくしは恍惚としたままでした。自分の口が発した言葉の意味など、そのときのわたくしには分かりませんでした。

 夢から醒め、とんでもないことになったと気づいたのは、あの声が聞こえた瞬間――

「ついに俺の子を孕む人が現れたぞ……!」

 ――あの、どうしようもないほど嬉しそうな声。わたくしを苦悩に叩き落としたあの声が、今でもわたくしの耳から離れないのです。



「アルテナ。アルテナ……!」

 わたくしははっと我に返りました。

 シェーラとレイリアさんが目の前にいました。シェーラが心配そうにわたくしの頬に手を当てます。

「大丈夫? 顔色が悪いわ、また眠れなかったんでしょう」
「そんなことないわよ。大丈夫」

 荷造りの最中だったことを思い出し、わたくしは手元の作業に戻ろうとします。
 しかし指先がうまく動きません。レイリアさんがぼそっとつぶやきました。

「ごまかすのが下手すぎやしませんか、アルテナ様」
「あんたは黙ってなさい!」
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