『忙しいところをすまないが、すぐに来られるか?』
「わかりました。すぐに伺います」
 
 この内線が来たとき、通常作業は一時停止する。パソコンをスリープ状態にしてタブレットを待つと、足早にフロアから飛び出した。
 
 野中菜月(のなかはづき)、二十二歳。私が働く『アシタホールディングス』は、宅急便を主に各種運送にかかわる事業の業界最大手会社。そこの人事部に籍を置いて一年、今は社員研修や人材育成の業務に携わっている。
 
 向かっているのは人事部の部長でさらに専務も兼務している私の上司、遊佐瑞希(ゆさみずき)がいる専務室。基本人事部のデスクにいることがもっぱらだが、今は専務の仕事が立て込んでいるらしく用事があるとこうして呼ばれるのだ。
 
 遊佐部長の直属の部下として働いているのは私だけじゃない。数十名いるというのに、なにかにつけて私を呼びだし仕事を託す。もちろん仕事ならばなんでも引き受けはするが、足取りも軽く嫌な顔ひとつせず遊佐部長のところに行くのにはそれなりの理由があった。