かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
消せない本当の心

「はぁ……」
 
 ひとり残された会議室で、ため息が漏れる。
 
 まさか瑞希さんと水族館へ行ったことで、こんな事態になるなんて思いもしなかった。フリーペーパーの写真に運悪く写ってしまい、瑞希さんとのことを知られるなんて……。
 
 瑞希さんと付き合うことになって、のぼせ上っていい気になっていた当然の報い、自分が考えが甘かったのか。
 
 いろいろ噂はあったけれど、本当の彼は真摯で誠実で優しくて。抱きしめてくれる腕は泣きたくなるほど温かくて、ずっとそばにいたい、愛し愛されたい──そう思っていたのに婚約者がいたなんて。
 
 水族館デートから一か月。その間に瑞希さんから与えてもらったたくさんの愛情のひとつひとつを思い出し、堪えていた涙が溢れ出る。

『泥棒猫のくせに』
 
 香野さんに言われた言葉が耳に張り付いたまま残っていて、胸がえぐられたように痛い。
 
 どのくらいの時間、ここにいたのか。ふと壁を見上げると、時計の針は十九時をさしている。いつまでもここにいるわけにもいかず、とりあえず会議室を出た。


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