優しすぎる彼が、今日も私を溺愛しすぎる
「ねえ、秋穂は覚えてる?」
ぼーっとしていたその時、いきなりこう話しかけらた。
かと思ったら、首筋にキンキンに冷えたビールジョッキが当てられた。

「何するの!!」
「大声出さないの、ご近所迷惑でしょう」

犯人は、稲田颯太しかありえない。ついこの間、結婚したばかりの夫だ。
せっかく、こうして仕事が終わった後の夕暮れ時のグラデーションを眺めながら、自宅マンションのベランダで、ぼーっと気持ちよく過ごしていたというのに……。

「大声出させることをしたのは、あんたでしょう」

と、文句を言いながらも、颯太からビールを受け取ると、私は一気に飲み干す。
「泡、ついてるよ」
と颯太が言いながら、私の口から泡を取り、ぺろりと舐める。
「なっ……なななななななな!」
何すんのよ!と言いたいのに、動揺してしまい、言葉がうまく出てこない。
「相変わらず、かわいい反応するね」
「うっ……うるさいうるさい!」
「はいはい」
「……で、何を覚えてるって?」
「まさか、あのワーカーホリック秋穂さんが、こんな時間にもう家にいるなんてな〜……と」
「……ほんとうるさい」
私は、空になったジョッキを颯太に押し付ける。
「……おかわり」
颯太は、返事の代わりに私の頭を撫でてからジョッキを受け取り、また部屋に戻っていく。

本当に、人は変わるものだ。
あれだけ、夜遅くまで働けばいいと思っていたのに。
あれだけ、仕事には、ストイックであるべき、と思っていたのに……。
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