喧嘩最強男子の溺愛
なんだか嫌な予感がした。
私の弟だと勘違いするとすれば、海人くんのことだろう。
この公園で海人くんと一緒に居たのを知っているのは、あの時の3人組・・・。
「もうすぐ俺のダチが来るからさ。そしたら思い出すんじゃね? まあ、俺の顔見ても気付かなかったくらいだから、ダチを見ても覚えてねぇか」
急に話し方が変わった蒼汰くん。とても乱暴な喋り方。
「どうしたの? 蒼汰くん?」
「どうしてあの時のホノカと電車で見ていた帆乃香ちゃんが同一人物なんだよ。ふざけんなよ」
「蒼汰くん、言っている意味が分からないよ。あの時って何? ね、蒼汰くん!」
「うるせーよ。もう遅いんだよ。引っ込みつかねえんだよ、くそっ!」
そう言って蒼汰くんは私が逃げられないように私の腕を力強く掴んで離さない。
そこへ蒼汰くんと同じ制服を着た2人の高校生がやってきて。
「蒼汰、なにやっちゃってんだよ。この女一人なのか? この前の男は居ないんだろうな?」
「ああ、いねーよ。電車でまいてきたし」
やっぱりそうだ。この会話はあの時の3人組。
蒼汰くんは最初から私に仕返しするために近づいたんだ。
「へぇ、蒼汰、いい女じゃね? 前は暗くて良く見えなかったけど。良く探し当てたな」
「ちょっと、蒼汰くん、腕を離して。あなたたち本当にあの時の3人なの? 嘘だよね、蒼汰くん!」
「蒼汰、蒼汰ってうるせーんだよ! お前だって遊びたかったんだろ? 学校サボるような、そういう女だもんなぁ。俺の演技にすっかり騙されて、可哀想なヤツだな」
ああ、私ってどうしてこうなんだろう。
今頃になって、島田くんの言っていた言葉の意味を理解するなんて。
『人に騙されたり裏切られたりするなよ。それと、情に流されるな。ちゃんと相手の本質を見抜けるようにならないと、そのうち痛い目に合うからな』
『上辺だけで判断するなよ。あの蒼汰ってやつもそうだから。簡単に信じるな』
自分が情けなくて。
こんなに私の性格まで理解してくれている島田くんなのに、私のことを見下すんじゃないかって、疑って。
島田くん、ごめんなさい。せっかく一度助けてくれたのに。
今日は助けてくれる人は誰も居ない。自分で逃げなきゃ。
「蒼汰くん、やめて。お願いだから、離して」
その時、私の制服のポケットに入れていたスマホが震えた。
誰かからの着信だ。
掴まれていない方の手でポケットに手を入れ、蒼汰くんに気付かれないように応答ボタンを押した。
「助けて! 誰か!! 助けて!」
誰からの着信か分からないけど、声の限り叫んだ。
私のいる場所を教えなきゃ。
とにかく誰かに知らせなきゃ。
「駅の近くの公園にいるから。早く来て! イヤーッ! 蒼汰くん、やめて」
「うるせーんだよ。今日はあの男がいないから誰も助けになんて来ねぇしな。はははっ」
「警察! 誰か、警察を呼んで! 助けて!」
「お前、ここに誰もいねぇのに、なに喋ってんだよ」
私はこの3人を脅せば私を解放してくれるかも知れないと思って、一か八か掛けてみた。
「私のスマホ、通話しているから。全部話は聞かれている。あなたたちもう逃げられないから」
「はぁ?! お前、なに嘘ついてんだよ。そんな手には引っ掛からねぇからな」
私はポケットからスマホを取り出して、誰からの着信だったのか初めて確認した。
有希からの着信だった。通話はまだ切れていない。
通話時間が10分を超えているのを見せると、3人は慌てて逃げようとした。