訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
それなのにギルフォードはちっとも緩めてくれない。
「そうだわ。エルセたちはどんな家に住むの? やっぱりお庭にはオレンジの樹が植わっているのかしら」
「街の郊外に屋敷を買おうと思っているんだ。中庭の噴水を囲む形で部屋がある、典型的な作りの屋敷だな。もちろんオレンジも植わっているよ」
「素敵ね」
さらりと話題を変えるとアマッドがデレっと答えた。
カルーニャの家は風通しの良い造りになっている。冬でもロルテームほど気温が下がらないからだ。どこの屋敷も中庭に噴水があり、熱い夏に涼をとれるようになっている。
「フューはどんな家に住みたい? 新居はどうしようか。夫婦の寝室の内装はきみの好みに合わせるよ。寝台は大きなものにしようね」
矢継ぎ早に言われてフューレアはどこから返事をしたらよいのか窮してしまう。
まさかこれも己に返ってくるとは思わなかった。
結局フューレアは目の前の牡蛎に逃げることにする。
「ああ、牡蛎が美味しいわね! さすがはロームだわ。新鮮な牡蛎がハーデル河を伝ってすぐに運ばれてくるのだもの」
どこかの店の宣伝文句のような説明文を口にしつつ、フューレアはその日の朝、メーペ湾で水揚げされた新鮮な牡蛎を褒めちぎった。生牡蛎に添えられたレモンもまたカルーニャ産である。
「そうですね。この牡蛎美味しいですよね」
「そうなのよ。ルーペ湾はすごいわね。こんなにも美味しい牡蛎が取れるんだもの」
「まったくです」
あからさまな話題の切り合えに男二人はしばし黙り、けれどギルフォードはすぐに相好を崩した。
「そんなにルーペ湾産の牡蛎を褒めると、妬けてしまうよ」
「ええっ?」
「俺もだよ、エルセ。牡蛎よりも俺の方がいい男だと思わないか?」
「……」
「だからそのきれいな紫水晶の瞳で熱心に牡蛎を見つめては駄目だよ」
なんだかとんでもない事態になった気がする。
フューレアはただ牡蛎が美味しいと言っただけなのに。
「ギルフォードったら、意味が分からないのよ」
「簡単なことだよ。フューを愛しているだけのことだ」
「俺だって。エルセが忘れられなくてロームまでやってきたんだ」
男二人はここぞとばかりに愛の表現合戦に突入した。どちらも現在求婚真っ最中。意中の女性への愛の言葉の表現で負けるわけにはいかないと、意味不明な闘志に火をつけてしまったようだ。
「エルセ。きみは俺の太陽だ。輝いている女神そのものだ。どうか、俺の元に留まってほしい。きみの愛を俺に与えてくれ。でないと、俺は息を吸うことすら苦しくてかなわない」
さすがは情熱の国というべきか。よどみのない愛を乞う台詞に、エルセの頬がひくりと引きつった。
「フューレア。私にとってきみはどんな宝石も霞むくらいの大切な宝物だよ。いますぐに屋敷の奥に閉じ込めて永遠に私だけのものにしてしまいたい。フューレアが私の全てなんだ。きみがいなければ、この世界なんて滅んでしまってもいい。それくらいきみを愛している」
(重たい……ギルフォードの言葉がものすごく重たい……)
「ええと……あなたの気持ちは分かったわ」
「本当? まだまだ言い足りないけれど」
「だめよ。これから観劇なのよ」
「本当は観劇よりも、きみを愛でていたいんだけどね」
「いえ、しっかりと舞台の方を観ていて頂戴。せっかくの人気舞台なのよ」
「今日のフューはとても可愛いから。観劇の最中はきみを膝の上に乗せて撫でまわしたい」
ギルフォードの言葉がだいぶおかしな方向へと向かってしまっている。
「そうだわ。エルセたちはどんな家に住むの? やっぱりお庭にはオレンジの樹が植わっているのかしら」
「街の郊外に屋敷を買おうと思っているんだ。中庭の噴水を囲む形で部屋がある、典型的な作りの屋敷だな。もちろんオレンジも植わっているよ」
「素敵ね」
さらりと話題を変えるとアマッドがデレっと答えた。
カルーニャの家は風通しの良い造りになっている。冬でもロルテームほど気温が下がらないからだ。どこの屋敷も中庭に噴水があり、熱い夏に涼をとれるようになっている。
「フューはどんな家に住みたい? 新居はどうしようか。夫婦の寝室の内装はきみの好みに合わせるよ。寝台は大きなものにしようね」
矢継ぎ早に言われてフューレアはどこから返事をしたらよいのか窮してしまう。
まさかこれも己に返ってくるとは思わなかった。
結局フューレアは目の前の牡蛎に逃げることにする。
「ああ、牡蛎が美味しいわね! さすがはロームだわ。新鮮な牡蛎がハーデル河を伝ってすぐに運ばれてくるのだもの」
どこかの店の宣伝文句のような説明文を口にしつつ、フューレアはその日の朝、メーペ湾で水揚げされた新鮮な牡蛎を褒めちぎった。生牡蛎に添えられたレモンもまたカルーニャ産である。
「そうですね。この牡蛎美味しいですよね」
「そうなのよ。ルーペ湾はすごいわね。こんなにも美味しい牡蛎が取れるんだもの」
「まったくです」
あからさまな話題の切り合えに男二人はしばし黙り、けれどギルフォードはすぐに相好を崩した。
「そんなにルーペ湾産の牡蛎を褒めると、妬けてしまうよ」
「ええっ?」
「俺もだよ、エルセ。牡蛎よりも俺の方がいい男だと思わないか?」
「……」
「だからそのきれいな紫水晶の瞳で熱心に牡蛎を見つめては駄目だよ」
なんだかとんでもない事態になった気がする。
フューレアはただ牡蛎が美味しいと言っただけなのに。
「ギルフォードったら、意味が分からないのよ」
「簡単なことだよ。フューを愛しているだけのことだ」
「俺だって。エルセが忘れられなくてロームまでやってきたんだ」
男二人はここぞとばかりに愛の表現合戦に突入した。どちらも現在求婚真っ最中。意中の女性への愛の言葉の表現で負けるわけにはいかないと、意味不明な闘志に火をつけてしまったようだ。
「エルセ。きみは俺の太陽だ。輝いている女神そのものだ。どうか、俺の元に留まってほしい。きみの愛を俺に与えてくれ。でないと、俺は息を吸うことすら苦しくてかなわない」
さすがは情熱の国というべきか。よどみのない愛を乞う台詞に、エルセの頬がひくりと引きつった。
「フューレア。私にとってきみはどんな宝石も霞むくらいの大切な宝物だよ。いますぐに屋敷の奥に閉じ込めて永遠に私だけのものにしてしまいたい。フューレアが私の全てなんだ。きみがいなければ、この世界なんて滅んでしまってもいい。それくらいきみを愛している」
(重たい……ギルフォードの言葉がものすごく重たい……)
「ええと……あなたの気持ちは分かったわ」
「本当? まだまだ言い足りないけれど」
「だめよ。これから観劇なのよ」
「本当は観劇よりも、きみを愛でていたいんだけどね」
「いえ、しっかりと舞台の方を観ていて頂戴。せっかくの人気舞台なのよ」
「今日のフューはとても可愛いから。観劇の最中はきみを膝の上に乗せて撫でまわしたい」
ギルフォードの言葉がだいぶおかしな方向へと向かってしまっている。