訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
「待って。フュー、きみは一体何を決めたんだ」

 隣に座るギルフォードが話に割って入った。
 そういえば、レーヴェン公爵は彼の口からギルフォードに話すと言っていた。この様子ではフューレアが決断をする今この瞬間までギルフォードには知らされていなかったようだ。

「わたし、名前を取り戻すの」
「なっ……」

 ギルフォードが絶句した。
 フューレアと己の父とを交互に見やる。
 公爵夫人は口をはさむことなく、彼女の夫の隣で成り行きを見守っている。

「フュー、何を考えているんだ。リューベルン連邦の皇帝は何を考えているかわからないんだ」
「でも、きっと悪いようにはならないはずよ。それよりもフィウアレアが行方不明という方が不安要素だもの」
「しかし」

 物事はその時によってさまざまに変化をする。そのときは、それが最善だと思っていたことが情勢によって変化する。

「これはフィウアレア様の決められたことだ。ギルフォード、おまえが口をはさむことではない」
「ですが私は彼女の夫です」
「まだ違うだろう」
「今日にでも結婚契約書に署名をするつもりでした」
「まったくおまえは」

 呆れかえったレーヴェン公爵が嘆息した。

「わたし、あなたがいてくれるから前に進めるのよ」

 フューレアはギルフォードの手にそっと己のそれを重ね合わせた。
 彼の熱がじんわりと伝わってくる。

「だから、わたしの隣にいてね。ギルフォード」

 フューレアがふわりと微笑み、彼を見つめるとギルフォードはしばしの間黙り込んだ。
 やおらゆっくりと瞳を細めて唇の端を持ち上げた。

「私はきみの味方だ」
「大好き。ギルフォード」

 あなたが隣にいるからわたしは勇気をもらえる。
 前に進もうと思えた。
 強さをくれてありがとう。
 フューレアは沢山の気持ちを込めて隣に座る愛おしい人に向けて微笑みを返した。
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