訳あり令嬢は次期公爵様からの溺愛とプロポーズから逃げ出したい
ギルフォードが選んだのはナフテハール男爵家の娘だった。彼女の経歴を聞いて愕然とした。異国から貰われてきた孤児だったのだ。ヴィヴィアンは孤児風情に負けたのだ。
「お父様の役立たずっ!」
ヴィヴィアンはそう吐き捨てて居間から出て行った。
怒りが収まらない。
どうして、あんな女に己は負けたのか。納得がいかない。
あの時だってそうだった。ヴィヴィアンはただ、フューレアが困ればいいと思っただけだ。人のものを横からかすめ取った女狐の泣き顔でも見られたらいいと思って彼女が持っていたメダイユを投げ捨てた。だいたい、卑しい身分の娘が金のメダイユなんて分不相応だ。
それなのに、彼女はあろうことか侯爵家の娘であるヴィヴィアンに向かって大きな声で非難をした。たかだか孤児が、あたかも人を傅かせるかの如く、凛として堂々とした声だった。強い眼差しに一瞬だけ怯んでしまったのは事実で、そのことも余計にヴィヴィアンの気持ちをぐちゃぐちゃにした。
フューレアは運河に飛び込んでしまったため、周囲は騒然となった。駆けつけたギルフォードは運河に身を投げたのがフューレアだと知ると、従者の制止も聞かずに運河へ飛び込みフューレアの元へ急いだ。
頭までずぶ濡れのフューレアを先に帰し、ヴィヴィアンのいたずらが知れるとギルフォードはヴィヴィアンに対して氷のような視線を寄越した。「汚らわしい」との一言だけ言い捨てて、彼はメダイユを捜索すべく人を集め、運河の中へ再び入った。
思い出しても腹立たしい。どうして、ヴィヴィアンがそこまで悪者にされなくてはいけない。
それに、先ほどの父の言い方。あれも酷いではないか。昔からローステッド侯爵はヴィヴィアンのすることに対しては何も言わなかった。ヴィヴィアンは侯爵家の娘なのだ。養女だろうが、元は孤児のような身分の低い女の方が本来であればこちらに傅かなくはならないというのに。
それにローステッド侯爵だって普段から言っているではないか。この国は商人の力が強すぎる。もっと貴族階級への敬意を払うべきだと。金に物を言わせて威張り散らしている商人たちの力を削ぐことに注力をしなければ、周辺国からも笑われてしまうと。
だからヴィヴィアンはその通り、こちらのほうが上なのだと教えてあげたのだというのに。
夕刻になって今度は母であるローステッド侯爵夫人に呼びだされた。
先ほどと同じく居間へ行くと、母は座りもせずに部屋の中を歩き回っていた。
「ショーディス夫人に言われたわ。しばらくわたくしを茶会に招くことはできなくなったって」
語るその目には娘であるヴィヴィアンに対する非難の色が乗っている。
「わたくしが出席をするとレーヴェン公爵夫人が茶会を欠席するのだそうよ」
「なっ……」
貴族のお茶会は女たちの社交の場でもある。婦人たちは自分の開く茶会にどのような人物が出席するかで主催者の力量と社会的地位を判断する。当然のことながらレーヴェン公爵夫人は社交界でも力を持っている。ローステッド侯爵夫人と娘の出席する集まりには参加をしない、その言葉が持つ意味をヴィヴィアンだとて理解できないわけではない。
「どうして……どうして、たかが孤児にそこまで……」
怒りで頭の中がどうにかなりそうだった。実際血管のいくつかが切れているのかもしれない。
「まさか、レーヴェン公爵夫妻までも素性も知れない元孤児をあそこまで庇うだなんてねぇ……。そうねえ……もしかしたら彼女、元はリューベルン連邦のどこかの家の娘だったのかもしれないわね。あそこは名のある家の一家離散も他人事ではありませんからね」
「お父様の役立たずっ!」
ヴィヴィアンはそう吐き捨てて居間から出て行った。
怒りが収まらない。
どうして、あんな女に己は負けたのか。納得がいかない。
あの時だってそうだった。ヴィヴィアンはただ、フューレアが困ればいいと思っただけだ。人のものを横からかすめ取った女狐の泣き顔でも見られたらいいと思って彼女が持っていたメダイユを投げ捨てた。だいたい、卑しい身分の娘が金のメダイユなんて分不相応だ。
それなのに、彼女はあろうことか侯爵家の娘であるヴィヴィアンに向かって大きな声で非難をした。たかだか孤児が、あたかも人を傅かせるかの如く、凛として堂々とした声だった。強い眼差しに一瞬だけ怯んでしまったのは事実で、そのことも余計にヴィヴィアンの気持ちをぐちゃぐちゃにした。
フューレアは運河に飛び込んでしまったため、周囲は騒然となった。駆けつけたギルフォードは運河に身を投げたのがフューレアだと知ると、従者の制止も聞かずに運河へ飛び込みフューレアの元へ急いだ。
頭までずぶ濡れのフューレアを先に帰し、ヴィヴィアンのいたずらが知れるとギルフォードはヴィヴィアンに対して氷のような視線を寄越した。「汚らわしい」との一言だけ言い捨てて、彼はメダイユを捜索すべく人を集め、運河の中へ再び入った。
思い出しても腹立たしい。どうして、ヴィヴィアンがそこまで悪者にされなくてはいけない。
それに、先ほどの父の言い方。あれも酷いではないか。昔からローステッド侯爵はヴィヴィアンのすることに対しては何も言わなかった。ヴィヴィアンは侯爵家の娘なのだ。養女だろうが、元は孤児のような身分の低い女の方が本来であればこちらに傅かなくはならないというのに。
それにローステッド侯爵だって普段から言っているではないか。この国は商人の力が強すぎる。もっと貴族階級への敬意を払うべきだと。金に物を言わせて威張り散らしている商人たちの力を削ぐことに注力をしなければ、周辺国からも笑われてしまうと。
だからヴィヴィアンはその通り、こちらのほうが上なのだと教えてあげたのだというのに。
夕刻になって今度は母であるローステッド侯爵夫人に呼びだされた。
先ほどと同じく居間へ行くと、母は座りもせずに部屋の中を歩き回っていた。
「ショーディス夫人に言われたわ。しばらくわたくしを茶会に招くことはできなくなったって」
語るその目には娘であるヴィヴィアンに対する非難の色が乗っている。
「わたくしが出席をするとレーヴェン公爵夫人が茶会を欠席するのだそうよ」
「なっ……」
貴族のお茶会は女たちの社交の場でもある。婦人たちは自分の開く茶会にどのような人物が出席するかで主催者の力量と社会的地位を判断する。当然のことながらレーヴェン公爵夫人は社交界でも力を持っている。ローステッド侯爵夫人と娘の出席する集まりには参加をしない、その言葉が持つ意味をヴィヴィアンだとて理解できないわけではない。
「どうして……どうして、たかが孤児にそこまで……」
怒りで頭の中がどうにかなりそうだった。実際血管のいくつかが切れているのかもしれない。
「まさか、レーヴェン公爵夫妻までも素性も知れない元孤児をあそこまで庇うだなんてねぇ……。そうねえ……もしかしたら彼女、元はリューベルン連邦のどこかの家の娘だったのかもしれないわね。あそこは名のある家の一家離散も他人事ではありませんからね」