さよなら、片想い
「すっかり遅くなっちゃったね〜」

カナダ人と日本人のハーフであり、俺と同じ図書委員会に入っている東山(ひがしやま)ナタリーが星の見え始めた空を見上げて呟く。その横顔を見ながら俺、松本研二(まつもとけんじ)は胸をときめかせた。

俺とナタリーはバス通学で、バスを今ベンチに並んで座って待っているところだ。二人きりのこの時間が愛しくて、永遠に続かないかと考えてしまう。だって、俺はナタリーに片想いをしているから……。

「ねえ、よかったら一緒に聴く?」

ナタリーがスマホと真っ赤なイヤフォンを取り出し、俺に微笑む。俺はコクリと頷いてイヤフォンを片方もらい、耳にさす。

耳にイヤフォンをさした刹那、俺の耳に響くのは最近人気のアーティストによる純愛ソング。なかなか想いを伝えることができない二人が「好き」と気持ちを告白する歌だ。

「あたし、この歌がすごく好きなの」

頬を赤く染め、ナタリーは言う。俺の耳に聴こえてくる歌詞は、ちょうど「好き」という告白の言葉を告げていた。
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