意地悪な副社長との素直な恋の始め方
トラウマの誕生日

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高校の卒業式を終え、大学進学に伴い夕城家を出るまであとわずかとなった日曜日。

十八歳の誕生日を迎えたわたしは、朔哉と二人きりで出かける計画を立てていた。

とはいえ、「誕生日を一緒に祝ってほしい」なんて誘っても、即座に断られることはわかりきっている。

来月に控えた芽依の誕生日を口実に、プレゼント選びと「誕生日デート」の下見に付き合ってあげると提案して、渋々ながらも朔哉を頷かせることに成功した。

不毛で不純な「セフレ関係」を始めたばかりの頃だったなら、そんな大それたことを考えつきもしなかっただろう。

けれど、ここ最近、朔哉がわたしを見るまなざしに、意地悪な口調の中に、以前とはちがうものを感じていた。

相変わらず、芽依との扱いの差はあったけれど、むしろ心を許しているからこそ、わたしには、ありのままの自分を見せているのだと思うようになっていた。

だから。

大きく環境が変わるいまが、わたしたちの関係を変える絶好のチャンス。
そんなことを考えてしまったのだ。

母以外には内緒にしていたけれど、わたしは大学進学と同時に夕城の家を出るつもりで、ひそかに家賃激安のオンボロアパートに部屋を借りていた。

ひとり暮らしをするのは長年の夢。
母から近々継父と離婚するつもりだと聞かされていたし、夕城家を出れば、「家族」でもなくなれば、朔哉と会うのにコソコソする必要などなくなる。

そんな不純な動機も少なからず混じっていた。

自分が「代替品」にすぎないことをすっかり忘れて、朔哉と普通の恋人同士になれるんじゃないか。

そんなことを考えていた。


**


(まさか、すっぽかすとかないよね? でも、来なかったらどうしよう……)


芽依には内緒だからと、別々に家を出て駅で待ち合わせることにしたのは、失敗だったかもしれない。

駅前の広場で朔哉を待つ間、拭いきれない不安に襲われて、スマホのゲームにすら集中できなかった。

スモーキーピンクのロングワンピースは、わたしの趣味ではないけれど、芽依っぽいと思って選んだ。
髪は、芽依がよくやっているように編み込みにし、化粧は、いつもの三倍も時間をかけたナチュラルメイク。
靴も、普段のわたしなら絶対に履かない、ぺったんこのバレエシューズ。

朔哉好みの恰好――芽依のスタイルに精一杯近づけた。

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