おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
第9章 宣戦布告される私と人気俳優の彼
 あれからまた、しばらく遼ちゃんとは会えていない。
 ずっと電話かL〇NEでのやりとりだけ。
 私はテレビの画面越しに、遼ちゃんを見ることはできるけど、遼ちゃんは私のこと覚えてくれてるだろうか?
 ……時々、寂しすぎて、弱気になる。
 同じマンションのあの部屋には、ほとんど来ていないみたいで、最近の暑さで、身体を壊してないか、仕事、大変じゃないか、とか、どれだけ忙しいんだろうと、心配になる。
 気が付けば、遼ちゃんへの誕生日プレゼントを渡せていないうえに、私の二十四歳の誕生日が近づいてくる。

――そして、もう少しで付き合って一年になる。

 その一年のうち、私たちはどれくらい同じ時間を過ごせていたのか。
 そんなことが、暑さでぼーっとした私の頭の中をよぎる。

――これって、『付き合う』って、いうのかな。

 けっこう『孤独』には忍耐力あると思ったのに、仕事中なのに、なんだか急に寂しくなった。

 そして、昼休み。
 朝からの暑さにめげて、出勤前にコンビニで買ってきたサンドウィッチを取り出す。ついでに、スマホを見ると、着信あり。

 相手は『寺沢さん』

 彼の名前を見ると、悪いことしか浮かばない。苦い顔をしながら、留守電が残っていたので、聞いてみる。

『留守電聞いたら、折り返し下さい。』

 何それ。余計に不安を煽るんですけど。その上、少し、慌ててた?

 大きく深呼吸してから、寺沢さんに折り返しの電話をした。何度目かのコールの後、留守電に変わる。

「神崎です。ご用件はなんでしょうか?今な『神崎さん?』」

 途中で電話に出た寺沢さんの声は、留守電と同じように、少し慌てた感じだった。

「はい」
『遼くんがケガをしました』
「え!?」
『O大学病院、わかりますか? そこに入院しています。』
「え、えと、どうして」
『撮影中にちょっと。モノが倒れて来て』
「だ、大丈夫なんですか?」
『たぶん』
「た、たぶんって……」
『お時間できたら、お見舞いに来てもらえませんか』
「あ、あの……私、行ってもいいんですか」
『神崎さんなら、大丈夫ですよ』

 いつの間にか通話は切れていた。
 せっかくのサンドウィッチも食べる気分じゃなくなって、遼ちゃんのところに行きたい、という気持ちばかりが膨れ上がる。

「神崎さん……どうしたの?」

 ランチから戻ってきた本城さん。スマホを握りしめて、呆然としている私に声をかけてきた。でも、本城さんのほうを振り返れない。

どうしよう。

どうしよう。

どうしよう。

どうしよう。

「神崎!」

 笠原さんの大きな声が、身体を縛りつけていた何かを吹っ飛ばしてくれた。
 はっとして、ようやく、目の前のことが見えてきた気がした。

「おい、どうした。顔が真っ青だぞ?」
「あ、あの……か、彼が、ケガしたって……び、病院……」
「なっ!? おい、しっかりしろ!」
「あ、あたし……病院行かなきゃ……」
「神崎さん、一緒に行こうか?」

 その言葉に、はっ、とした。
 ダメだ。遼ちゃんのことは、誰にも言えない。

「あ、い、いえ。大丈夫です」
「大丈夫そうに見えないけど」
「い、従弟呼びます」

 一馬、一馬に連絡しなきゃ。
 慌てて、フロアから出てエレベーターホールで電話する。
 早く、早く出て!

『はーい』

一馬ののんきな声が私をイラつかせる。

「か、一馬、会社まで来れる?」
『……どうした』

 私のうわずった声が、一馬に今の私の状況を伝えたようだ。

「り、遼ちゃん、ケガしたって……私、これから行きたいんだけど、い、一緒に来て……」
『わかった。三十分以内には行く。待てる?』
「う、うん」

 自分の席に戻り、机の上を片付けだした。

「神崎」
「あ、な、楢橋さんに言わなきゃ」
「いいわよ。私の方で言っとく」
「今日、終わらせなきゃいけない仕事とかは、大丈夫か」
「は、はい。急ぎのは今のところないんで」
「従弟はどれくらいで来るって?」
「三十分くらいで、来れるって言ってました」

 パソコンをシャットダウンする時間がもどかしい。そして、こんな時に内線の電話がかかってくる。

「私が出る」

 本城さんが、電話に出てくれた。

「神崎、落ち着け。仕事は、気にするな。俺たちだけでもなんとかなるから」
「は、はい」

 こういう時、二人がとても頼もしくて。涙が出そうだ。私は頷くと、鞄を持って、すぐにフロアを飛び出す。そして、ビルから出たところ、一馬が待っていた。
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