政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
誤解
 日曜日、夕日が差し込む自宅のリビングで、柚子はクロを抱いてソファに座り、途方に暮れていた。
 今日の午前中に柚子は動物病院へ行ってきた。
 クロを正式に家族へ迎え入れるなら、健康診断をしなくてはならないからだ。
 翔吾の方は、日曜日の今日も仕事だった。だから柚子はひとりで病院へ行ったのだが、そこで医者に聞かされたのは衝撃的な事実だった。
『クロちゃん、妊娠していますよ』
 クロは推定三歳くらいのメスだった。もちろんそこまでは柚子の想定内。でも妊娠までは予想していなかった。
「……だからお腹がすいて、私に助けてほしかったの?」
 柚子は膝の上のクロを撫でる。だとしたら、あの時、放っておかなくてよかったと心から思う。
 医者の見立てでは、年齢からいっておそらくクロははじめての妊娠なのだという。さぞかし不安だっただろう。
 うちに連れてきて本当によかった。
 でも柚子の頭の中は不安でいっぱいだった。
 病院では里親探しの手伝いもしているという。猫好きの母の交友関係も駆使すれば、生まれた子猫たちの引き取り手に困るということはないだろう。
 だから柚子の不安は拾った猫の数が思いがけず増えてしまったということに対してではない。
 柚子が不安に思っているのは、クロの出産そのものだった。
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