政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
柚子と翔吾と沙希
 五つ星ホテルの大会場を貸し切って、生花の展覧会は開かれている。
 会場は華やかな空気に満ちていた。
 その中で柚子は少し緊張しながら良子を探していた。
 出展者と思しき着物姿の女性はこの会場にたくさんいる。でもすぐに良子を見つけることができた。会場の片隅で人の輪の中心にいて、談笑している。
 もともと朝比奈グループの社長夫人である良子はどこに行っても顔が知られている目立つ存在だ。
 それに加えて快活で気配りができる、誰がどう見ても文句の付けようがない朝比奈グループの社長夫人。柚子が将来なりたいと願う女性像だった。
 でもその姿が、翔吾の本当の結婚相手だった自身の姉とかぶって見えて、柚子の胸はズキンと痛んだ。
 明るくてハキハキして、社交的。そんな姉は、まさに朝比奈翔吾の妻に相応しいと家族の誰もが言っていた。
「あら、柚子ちゃん! 来てくれたのね」
 良子が柚子に気が付いた。
 その言葉に、彼女の周りにいた人たちの注目が柚子に集まる。
 柚子は背筋を伸ばして、お腹に力を入れた。
 人に見られるのは苦手中の苦手だが、そんなことは言っていられない。
「こんにちは、お義母様。本日はお招きいただきましてありがとうございます」
 そして丁寧に頭を下げた。
「嬉しいわ。来てくれて」
 柚子に歩み寄る良子につられて、彼女の周りにいる人たちも柚子の方へやってくる。
 あっというまに柚子は良子の友人たちに囲まれた。
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