それは突然知らされた。渡瀬がドイツへ出向になる為に、今週いっぱいで職場を後にするという。最近連日バタバタと残業をしていたのは、来週半ばから現地で仕事を始めるための準備だったと分かった。

「え~、渡瀬くん、なんにも言ってなかったの?」

お昼の時間、滝川が千秋にそう問うた。何も聞かされていなかったので頷くと、渡瀬くんも詰めが甘いなあと唸った。

あの時、千秋の『本当の気持ちを聞くまでは諦めない』と言っていたけれど、忙しそうにしている渡瀬には、そんなことをしている暇はなさそうだった。

……このまま、収まってしまえばいい。そうしたら千秋は、緩やかに砂本に向き合える。砂本は大人だ。千秋がおぼつかないことも承知で居てくれるから、千秋が砂本に追いつく時間の余地はあるだろう。渡瀬からはそういうゆとりを感じられなくて、食らい尽くされそうに感じて怖い。だからとてもじゃないけど渡瀬には向き合えない。止まっていた時間は長い。千秋はあの日から自分の足で歩きだすのを、見守って欲しいと思ったのだ。それには砂本でないと駄目だ。千秋は心を決めていた。