空を舞う金魚

貴方だけを想う


日曜日の夜。千秋は誕生日に砂本から自宅に贈られたグリーンのワンピースを着て、砂本とフレンチのお店に来ていた。こういう店は初めてなので(というか、砂本が選ぶ店は何処も千秋には縁がなくて)どきどきする。それにしても、砂本がこの店に入るのに少し緊張してたようだ。砂本はこういうところには慣れてると思ったのに。

でも、席に着いてオーダーを通してしまうと、千秋を前に落ち着いた様子を見せた。

「やっぱり、その服似合うね。かわいいよ」

砂本は会うと何時もかわいいと言うので、もうだいぶ慣れた。……とはいえ、軽口で返せるほどには慣れていないので、黙るだけだ。俯かなくなっただけでも進歩だと思う。

前菜とスープ、それにサラダが出て、砂本も渡瀬の出向に際して取りまとめがあったりして大変だったんだということを話していた。やっぱり仕事の話になると千秋は部署で一人蚊帳の外で、こういう風に今まで何人もの社員を退社だったり移動だったりで見送って来たなあ、と思い出した。
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