空を舞う金魚

出勤時。エレベーターホールでエレベーターを待っていた千秋に声を掛けた人が居た。

「綾城さん」

振り向くと其処には渡瀬が居て、ちょうど彼も出勤してきたところだった。

「おはよう。朝から暑いね」

「そうですね。男の人はネクタイ大変ですね」

女子は体感温度調節が割と自由に調節できるから、男性は本当に大変だと思う。特に営業の人なんて、ネクタイだけでなくジャケットも手放せないから。

「空調キツめに利かせて欲しいな」

「28度設定って規則で決まってるので」

マジか~、とため息を吐いた渡瀬がふと千秋を見た。

「ねえ、リップ変えた? よね?」

(えっ)

まさか渡瀬が気付くとは思わなかった。指摘されて恥ずかしくなる。

「ちょっと……、気分転換を……、して、みようと」

思ったんですけど。

そう続けようとした千秋の言葉に、渡瀬の言葉が被る。
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