偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「……櫂人さんを本気で嫌ったことは一度もない。むしろ私が好意をもたれるわけないって思ってた」


「お前に触れたい気持ちが強すぎて、正気を保つのに毎日必死だった。俺の理性の限界を試しているのかと何度思ったか。……誰かをこんなにも愛しく求める気持ちが俺の中にもあったのかと驚いた」


「櫂人さん……」


赤裸々な告白に胸がキュウッと締めつけられる。


「藍は俺に初めての経験や想いを与えてくれる。そんな女性は藍しかいない。……やっと気持ちが通じたんだ。今日は一日ふたりきりでゆっくり過ごしたい」


「仕事は、いいの?」


「ああ、そのために昨夜必死で終わらせた」


しれっと口にするこの人は、本当に策士だ。

絶対に一生かなわない気がする。


有限実行の櫂人さんと私は、一日のほとんどをベッドの上で過ごした。

ただお互いの体温を分け合って、鼓動を感じているだけでとても安心して幸せだった。

伸ばした指を、身体を当たり前のように受けとめてもらえることに心が震える。

これほどまでに穏やかで満たされた気分を味わうのは初めてだった。


意外にも世話好きなのか、櫂人さんはなにかと私に構う。

お腹が空いたので起きようと誘うと、食事のデリバリーを頼んでくれた。

さらには私を膝の上に乗せて食事をさせようとする。

子どもじゃないし、自分できちんと食べられると主張しても、なぜか譲ってくれない。

彼に視線を向けると、逸らしもせず甘さを含んだ優しい目で見つめ返してくれる。

そんな何気ない仕草が泣きたくなるくらいに嬉しくて、胸が甘く痺れた。

こんな日が、これから先ずっと続きますようにと心の底から願った。
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