聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

「ねぇおじさん、ずっと気になってたことがあるんだけど」
「ん? 何だよ」
「おじさんって昔は騎士さんだったの?」
「ああ、一応な」
「何でやめちゃったの?」
「それはまぁ……色々あったんだよ」

 おじさんの言い方には含みが感じられた。
 色々の中には、本当にたくさんの事情が隠されていそう。
 
「じゃあさ! おじさんのこと教えてよ!」
「急だな」
「だってせっかく時間があるんだもん」

 ボクらは依頼を終えて冒険者ギルドにいる。
 普段よりも依頼が早く片付いて、帰る時間まで暇になってしまった。
 いつもの場所で座ってのんびり過ごしていて、ふと思い出す。

 そういえばボク、あんまりおじさんのことを知らないんだよね。
 前に助けた貰った時も、結局聞けなかったし。
 ちょうど時間もあるから、おじさんのことが知りたいな。

「ダメかな?」
「別に駄目じゃねぇけど」
「本当? じゃあお願いします!」
「う~ん、でもなぁ。自分語りは面倒臭し、大して面白くもないしな。やっぱなしだ」
「えぇー!」

 おじさんは気だるげにそう言った。
 ボクはガッカリして、顔をムスッとさせる。
 すると――

「ならば私から話そうか?」
「ん?」
「誰?」

 声をかけてきたのは、フードを被った怪しい男性だった。
 ボクにも怪しいってことがわかるくらい、全身をマントで隠している。
 ただならぬ雰囲気を感じるけど、一体誰なんだろう。
 と思っていたら、おじさんが言う。

「ジュードか」
「久しぶりだね、タチカゼ」
「おじさんの知り合い?」
「ああ。現王国騎士団の団長さんだ」
「き、騎士団ちょ――!」

 おじさんがボクの口を慌てて塞いだ。

「声がでかい!」
「あっははは、すまないね。隣に座らせてもらうよ?」
「おう。何しに来たんだ?」
「その前にタチカゼ、彼女を離してあげたらどうだ?」
「ぅ~」

 ボクは口を押さえられたままだ。
 苦しくてじたばたしている。

「あっ、悪いな」
「ぷはー! もう死ぬかと思ったよ」
「お前がでかい声で騒ごうとするからだろ」
「うぅ~ ごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいさ。私が不用意に声をかけたのが悪い」

 フードから見える顏は、とても優しくて綺麗だった。
 とても騎士団のトップには見えない。

「初めまして、私はジュード・クレイス。アトワール王国騎士団の団長をしている」
「ぼ、ボクはサーシャって言います!」
「うん、よろしくね。サーシャちゃん」

 声や話し方も丁寧でやさしい。
 なんというか、大人の男性って感じがする。
 おじさんの知り合いみたいだけど、全然違うタイプの人だ。

「あの、おじさんとはお知り合いなんですか?」
「そうだよ。私と彼は騎士団の同期でね」
「どうき?」
「同じタイミングで騎士団に入ったってことだ」

 おじさんが付け加えてくれた。
 よく聞くと、年齢も二人は同じらしい。
 ボクはじーっとおじさんを見つめる。

「何だよ」
「おじさんって……老けてるの?」
「ぶっ! こいつと比べるな! こいつが若々しすぎるんだよ!」

 慌てるおじさんも可愛い。
 そんなボクたちを見て、ジュードさんは笑っていた。

「おいジュード、何笑ってるんだ?」
「いやすまない。そんな風に取り乱すお前を見るのは、久しぶりだったものでな」
「ジュードさんは昔のおじさんを知ってるの!?」
「もちろんだとも。共に剣を磨き、高め合った戦友だからね。まぁ彼は王国にほとんどいなかったが」

 そう言いながら、ジュードさんはおじさんに視線を送る。
 ボクはおじさんに質問する。

「そうなの? おじさん」
「まぁな。色々あって騎士にはなったが、オレには合ってなかった。そんで適当にいろんな場所を回って、ついでに悪い奴らを斬りまくってたんだよ」
「そうして噂が広まり、最強の遍歴騎士と呼ばれることになっていたよ」

 遍歴騎士とは、様々な目的で各地をあるいた騎士のこと。
 おじさんの場合は、自分の剣技を極めるための旅だったらしい。

「何でやめちゃったの?」
「……まぁ色々あったんだよ」
「タチカゼ、話して上げてもいいんじゃないか? この子はお前を信頼しているようだし」
「ジュード……そうだな。別に隠すことでもない」

 そう言って、おじさんはなくした左腕に触れる。

「十年前、この国を悪魔が襲ったんだよ」
「悪魔!?」
「そう。めちゃくちゃな強さでな、当時の騎士団長も殺された。この街の近くまで攻め込んできたから、オレとジュードで戦ったんだ」
「ああ」
「そんときにヘマしてな。片腕をもっていかれちまった。何とか勝ったものの、半年くらいまともに動けなかったよ」

 おじさんは自分の剣技を極めたかった。
 その夢が、片腕を失ったことで遠のいてしまった。
 次に動けるようになったときは、何もかも面倒になっていたという。

「もういいやってなってさ。騎士団も辞めて、冒険者に転職した。そんで今に至るってわけだ」
「……そう、なんだ」

 話している時、おじさんは切なげな表情をしていた。
 ボクにはおじさんの気持ちがわからない。
 だけど、辛かったんだろうとは思う。
 おじさんはボクの暗い表情を見てため息をこぼし、頭をポンと叩く。

「なんて顔してんだよ」
「おじさん」
「もう終わったことだ。別に後悔もしてないし、お前が落ち込むことじゃねーだろ」
「……うん」

 おじさんの手は大きくて優しい。
 この手でたくさんの人たちを守って来たんだと思うと、やっぱり悲しくなる。
 
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