聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

7

 デリント王子が去っていく。
 その様子を窓から眺めながら、出された条件を頭の中で反復する。

 三人のうち一人が王子と正式に婚約すれば、残り二人の居場所は確保される。
 ただし、匿われる形になるため、しばらく人前には出られない。
 加えて、二人は王子のお世話をしなくてはならない。
 拒否すればどうなるかなんて、考えるまでもなく予想がつく。
 そしておそらく、このことを陛下は知らない。

「……アイラ」
「アイラお姉ちゃん」

 二人が心配そうに私を見つめてくる。
 私は安心させるためニコリと微笑み、二人の頭を撫でて言う。

「大丈夫よ。もう少し考えましょう」
「わかった」
「……うん」

 と言っても、あまり時間はない。
 残り三日間で、私たちは結論を出さなくてはならないから。
 私は自分の胸に手を当てて考える。 

 どうする?
 王子の提案を受け入れれば、一先ず王国内で生きていくことは出来る。
 でも、その代償が大きい。
 何より嫌なのは、婚約した人以外の二人が、その役目を負うことになることだ。
 私も嫌だけど……せめて私なら良い。
 だって私は長女だから、妹二人のために身体を張るくらい出来ると思う。
 
 率直な気持ちを言えば、そんなのは嫌だ。
 婚約者になっても、たぶん私は言いなりになるしかない。
 弱みを握られている以上、対応は二人と変わらないと思う。
 それでも彼は王子だから、最低限の安全と生活はきっと許される。
 
 でも、だけど……
 これしか方法はないの?
 私たち三人が幸せになるには、彼に従うしかないの? 

 考えがまとまらない。
 悩みに悩んでいると――
 
 トントントン。
 
 部屋の扉をノックする音が聞こえて、私はびくっと反応する。

「聖女様方、陛下よりお荷物をお届けにまいりました」

 男の人がそう言った。
 陛下からの荷物……と疑問を感じたが、すぐにピンときた。
 あの時話していた二人分の活動資金のことだろう。

「どうぞ」
「失礼いたします」

 扉がガチャリと開き、使用人の男性が中へ入ってくる。
 手には大きな袋を持っていて、近くの机に置く。
 置いたときに聞こえた金属音で、中身がお金であることを察した。

「こちらになります」
「はい、ありがとうございます」

 確認のため、私が中身を見る。
 予想通り、中身はお金だった。
 ただし、予想した以上の大金が、袋一杯にびっしりと入れられていて驚く。

「こ、こんなに?」
「外に馬車が止められています。そちらにも荷物が用意されていますので、後でご確認ください」
「は、はい。わかりました」
「では私はこれで失礼いたします」

 ささっと使用人の男性は部屋を出て行く。
 三人だけになった私たちは、こぞって袋の中身を確認しなおした。

「二人とも見て」
「全部お金?」
「こんなにたくさん……」
「ええ」

 正確に数えていないけど、街で部屋を借りて、普通の生活が五年は出来る金額が入っている。
 陛下は二人分とおっしゃっていたけど、三人でも三年くらいなら余裕で暮らせる金額だった。
 大金を見せられて、妹たち二人は目を丸くしている。
 こんな状況じゃなかったら、サーシャなんて大喜びで飛び跳ねているだろう。

「アイラ、外にも馬車があるって」
「そうね。確認してみましょう」

 先に窓から見下ろす。
 サーシャが見つけたようで、指をさして言う。

「あれじゃないかな?」

 思ったより大きい馬車だ。
 見た目は確か、荷物の輸送で使う物と同じ。

「なるほどね」

 この状況で、二人をどうやって国外へ連れていくのか疑問だったけど、これで納得した。
 四日後の朝に、王城を出て行く積み荷がある。
 それに紛れさせて、二人を乗せた馬車を国外で出すつもりみたい。
 だから陛下も、三日間を期限に設けたのだろう。

 私たちは屋敷を出て、庭に止められた馬車へ近づく。
 後ろの布で覆われた積み荷を開けると、衣類や生活に必要な物品が数多く乗せられていた。
 ちゃんと人が乗れるスペースも確保してある。

「いっぱいあるよ」
「これ全部……わたしたちに?」
「そうみたいね」

 陛下なりのやさしさだとわかる。
 申し訳なさそうな陛下の顔が頭に浮かんで、余計につらくなる。
 これだけお金と物が揃っていれば、追放されても不自由なく生活は出来そうだ。
 もしかすると、王国に残るより幸せかもしれない。
 二人がそれで良いなら……ううん、やっぱり三人じゃないと――

 ふと、私の頭に一つの案が浮かぶ。
 それは名案かもしれないけど、いろんな人に迷惑をかける案だった。

「ねぇ二人とも、少し聞いてくれるかしら?」
「どうしたの? アイラお姉ちゃん」
「……何か思いついたの?」
「ええ。一つだけ、私たちが三人で一緒にいられる方法があるわ」
「それって王子様の話?」

 カリナの質問に、私は首を横に振って答える。

「違うわ。安全で言えば、デリント王子の提案のほうが良いと思う。だけどたぶん、それじゃ私たちは幸せになれない。私の考えてる方法は大変で、たくさん頑張ることがある。それでも三人で一緒にいられる……二人が――」
「「そっちが良い!」」

 二人は口を揃えてそう言った。
 わかっていたけど、ちゃんと言ってくれると嬉しい。
 私はニコリと微笑む。

「決まりね」

 ごめんなさい陛下。
 それと王子……貴方の思い通りにはならないわ。
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