自販機で栄養ドリンクの瓶と目が合ったら、急に疲れがどっと出てきた。

 こんな気休め、飲みたくもない。買うつもりはなかったのに買ってしまった。自販機で買うと120円也。
 たった今出たばかりのスーパーでは、「特価!6本1パック698円(税別)」だったはずだけど、これ、よくよく考えたら金額変わらない。というより自販機で6本買った方が安いじゃん――と、概算した。
 しかし、それで「特価」とはあまりにもふかし過ぎではと冷静になって考えると、くだんの栄養ドリンクは、実は「10本1パック」であり、どうやら割と近くにあったビール系飲料6本パックというのとごっちゃになっていたことに気づいた。
 そこで急におかしくなって、声をたてて笑ってしまった。疲れのせいか、感情のコントロールがアホになっているらしい。

 しかし場所が悪かった。
 自販機の脇の、喫煙所を兼ねたベンチである。
 ほかに誰も座っていなかったが、ちょうど駐車場に車を停め、スーパー店内に入ろうとしている通りすがりの中年女性にギロッとにらまれてしまった。
 新型コロナウイルス蔓延につき、大多数の人が外出時にはマスクをしているこの日本において、「目は口ほどに…」というのを痛いほど思い知る。にらまれると、マスクなしのときより目が際立つのだ。

(あなたのことを笑ったんじゃありませんよ~少し自意識過剰では?)
 内心、そんなおとなしめの悪態をついた後、あの独特のプルキャップをきゅっと引いて、ぐっとひと口飲んだ。

 呼び方はプルキャップ――でいいのかな?と思い直し、スマホで調べてみると、正式には「マキシキャップ」というらしい。ひとつお利口になった。

***

 1カ月前にオープンしたこのスーパーに来るのは初めてだったが、「この場所」に来るのは初めてではなかった。
 ここには以前、少し大きめの古着屋がありそこのバイトに応募して振られたことがあった。
 アパレル関係の企業勤めの経験もあり、衣料ブランドの知識もそこそこあったし、自分が特に不愛想だとか、礼儀がなっていないなどとは思っていなかったが、30歳という年齢と、「トガった感じではない」のがダメだったのかな?と、当然教えてはもらえない不合格理由を分析してみた。

 店長の面接時に、「そういう感じのお洋服が好きなんですか?よく似合っていますね」と言われたが、要するに「うちとは合わない」という意味だったのだろう。
 私の好きなナチュラル系ブランドの服も、その店では多く扱っているように見えたが、なるほど、売っているスタッフさんの方は、男性も女性ももっとぶっ飛んだ感じの人が多い。言葉を選ばず言うと「ダサッ」と思われたのかもしれない。

 その後応募した生活雑貨店にすぐ採用され、おかげさまで今は楽しく働いているが、古着屋の方は、コロナ禍のあおりかどうかはいざ知らず、面接の日から1年も経たずに閉店してしまった。
 閉店を知った夫・恵介(けいすけ)は、「あずにゃんを落とすような店だから、罰が当たったんだよ」と言われたが、ぜんぜん笑えなかった。人を落とそうが、内心ダサいと笑っていようが、職を失って困っている人もいるだろうに、そんな気持ちにはなれない。
 大体、いい年した私を「あずにゃん」って何だよ!私には「後藤あずみ」という立派な名前があるのだけど。

 恵介はノリは軽いが悪いやつではない。少し無神経なだけなのだ。
 しかしその無神経さは、時に致命傷にもなり得る。