子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
罪でもいいから愛が欲しかった

「琴葉(ことは)、どこにいるのー?」

 実家の広い日本家屋。年季を感じさせる木目の廊下を掃除していた私は、名前を呼ばれて顔を上げた。

 その弾みに縁側から差し込む明るい光が瞳を刺す。ぎゅっと目を閉じてから瞬きするが、滲んだ涙はこぼれずに私の中へ吸い込まれていった。

「今、行きます」

 濡れた雑巾を手に立ち上がり、裾を払ってから奥の和室へと向かう。

 この家は築何十年になると言ったか。大正時代から続く呉服屋の宝来(ほうらい)家は、ここだけ歴史を切り取って残してあるような、古き良き和の空気を残している。

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