想いを『時』の砂に乗せて
さらさらとした砂が、果てしなく続く地を覆い尽くしている。

見たこともない、別世界のようなその地に迷い込んだある男は、自分はもう助からないのだと思った。

何も無い。
誰もいない。
砂ばかり。

彼はふと、自分は何を思って生きてきたのだろうと思った。

貧しい村に生まれ、幼い頃に迷った拍子に拐われて売られ、逃げ出し、 転々と彷徨いながら生きて……

…好きになった相手と結ばれる事もなく…


………

『…お嬢様じゃないか…。良家のお嬢様が、もうこんなとこに来ちゃいけねぇよ……こんな、貧乏な男のもとになんか……』

その娘は時折、彼の野宿する街の外れにやってきていた。

『…知ってしまったのね……。お嬢様、なんて呼ばないで…?いつも、名前を呼んでくれていたじゃない…』

『知らなかったんだ…お前さん、気取ったところもなかったもんで、身なりは良いが、普通の娘さんだと思っていてな……これでも色々と旅をして様々なもんを見てきた身だったんだが…許して頂きてぇ……』

知ったのはつい最近のことだった。
本当に気取った所のないこの娘を、彼は身分も知らずにとっくに好いてしまっていた。

『そんな…!関係ないの、私の家なんて…。私はあなたに会いに来たの。あなたはいつも、私に色々教えてくれたわ…だから……』

『もう来ちゃいけません…親御さんが知ったらなんと言うか……』

彼は娘の顔も見られずに荷物を纏め始めた。

『待って…!!』

身分違いの恋。もうこれ以上、彼女のそばにいてはいけない、そう思った。
娘の呼び掛けにも応えずに、纏めた荷物を手に立ち上がる。

『…もうこんな所に来ちゃ、いけませんよ、お嬢様…。街一の旦那のところに嫁がれるとか…お幸せにな……』

足早に立ち去る。
彼女への想いを振り切るように…

『待って!!嫌っ…いやぁぁ…!!』
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