朱美はその前日の夜、遅くまでかかって台所を占領してトリュフ作りに奮闘し、ラッピングにも凝りまくり、翌日のイメージトレーニングもしていた。
 「吉田君」こと彼氏が好きな青色の細いリボンを、雑誌に載っていた「ラッピングテクニック」を見ながらほどこし、きゅっと仕上げに結んだところで、姉に「アケミ、彼氏くんからだよ」と電話の子機を渡された。
 翌日の予定確認か何かだと思ったら、「俺ほかに好きな子ができたんだ。別れてくれ。明日の約束もキャンセルな」という趣旨の電話だったという。

 朱美は青天の霹靂のようなこの事態をどうしても受け入れられず、とりあえずラッピングしたチョコレートを冷蔵庫に入れ、風呂に入り、念入りにトリートメントを――しようとしたところで「あ、明日の約束キャンセルだっけ…」ということを思い出してやめた。

「だからほら、髪ぱっさぱさでしょ?」
「いや、そうでもないけど…」
「そ。じゃ、いいや」

 朱美はもともと髪質がよく、ストレートのセミロングに近いボブがよく似合っていた。
 もっとも口の悪い者には「岸田劉生の麗子の肖像画みたい」などと言われていたのだが、それはさておき。

 風呂から上がり、こちらから電話をしようかとも考えたが、基本的に親の言いつけを守るタイプの朱美は、そんな遅い時間に電話をすることはできない。悶々として眠れないまま朝を迎え、よほど学校を休もうとも思ったのだが、朝、牛乳を取り出そうとして冷蔵庫を開けたとき、チョコレートのパッケージが目に飛び込んだ。