捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
プロローグ



クラシックが控えめな音量で流れていた。
ふかふかのクッションが敷かれた籐のソファ。アンティークシャンデリアの上品な照明。温かなウバの入ったウェッジウッドのティーカップに、ティーコゼーに包まれたそろいのティーポット。
どれも馴染みのもので私の心を落ち着かせてくれるはずだった。
ティーカップを持ち上げ、その手が震えていることに気づき下ろす。

アーバンコンチネンタルホテルのティーラウンジもそろそろ閉店だ。
ここの給仕スタッフは、早くラウンジから出てほしいというようなプレッシャーは絶対にかけてこない。静かに、少なくなった利用客に気づかれないように閉店の準備を進めている。

ここを出なければならない。落ち着こうと何度も利用しているホテルの入ったものの、私はこの先の方策をまったく持っていなかった。

「部屋を取ろうかしら」

日曜の夜だ。海外セレブも利用する一流のホテルの部屋をその場で取れるかといったらわからない。支配人の根方さんは父と懇意だ。呼べば一部屋くらい融通してもらえるだろうか。いや、そんな横紙破りはいけない。それに私が宿泊したと、万が一にでも父に知られるわけにはいかない。

父は心配するだろう。
嫁に出したばかりの娘が、どうして日曜の夜にひとりぼっちでホテルの宿泊しにきたのかと。
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