捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
2.ずっと惹かれている



奏士さんは憧れのお兄ちゃんだった。
子どもの頃は無邪気に「そうちゃん」と呼び、会食やパーティーで会う度に奏士さんの後をついて回った。お兄さんの隆士さんは奏士さんより十歳年上で、私や弟の由朗には大人のひとりだった。奏士さんとは年の近い親戚のお兄ちゃんという接し方をしていたように思う。

小学生に上がる頃には自分の気持ちが恋というものだと自覚していた。
無邪気にくっついて歩きたい気持ちと、すまして女の子らしく見せたい気持ちが小さな心に同居して、私はなんとももどかしい日々を過ごす。
高学年に上がる頃には「そうちゃん」などと気軽に呼べなくなり、「奏士さん」と呼ぶようになった。奏士さんもまた、幼児にするように私を抱き締めたり、手を繋いでくれることはなくなった。

どうしたら、奏士さんとずっといられるだろうと考えた結果が『婚約』だったのだけれど、彼は渡米。私は初恋を忘れることにした。
幼い頃の五つ差は兄妹でいられた。
だけど中学生と大学生の五つ差は、世界の隔たりだった。私は何も知らない子どもで、彼はすべて知っている大人に見えた。

大好きだから、彼の世界を邪魔したくない。そう思った。
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