捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
1.愛のない政略結婚



奏士さんが連れてきてくれたのはホテルからほど近い日本橋のオフィスだった。
おしゃれで近代的なデザインのビルは新築のようで、MISAIと入っている。持ちビルなのだとわかる。

「奏士さん、ここは」
「三栖ビジネスソリューションズ株式会社。俺の新しい仕事場」

奏士さんは得意げに微笑んだ。彼はずっとアメリカで仕事をしていたはずだ。
彼の父親が社長を務める三栖株式会社の、海外拠点の若きトップだった。私が質問を返すより先に、奏士さんは私をエレベーターにのせる。日曜のオフィスはどこもかしこも無人だ。

「アーバンコンチネンタルには、友人を送って行ったところだったんだ。まさか、里花と会うとは思わなかったよ」

奏士さんは優しく気遣わしげな微笑みで私を見下ろした。その目に見つめられると、幼い頃からドキドキしてしまう。私はさりげなく視線を逸らした。

最上階の三十階で降りるとそこには大きなドアがあった。
広々とした執務室は半分の壁が窓になっていて、都心の夜景が広がっていた。応接用のソファとサブデスクにそれぞれ男性と女性がいた。私と同じくらいの年齢に見える。

「沙織(さおり)、功輔(こうすけ)、ただいま」
「奏士社長お帰りなさいませ……ってお客様ですか」
「もう! 先にひと言、連絡してくださいよ~」

女性の方が軽い口調で文句を言い、奏士さんは簡単に紹介する。

「里花、このふたりは俺の部下で門司(もじ)功輔と門司沙織。双子で、里花とは同い年だったはずだ。……功輔、沙織、こちらは俺の幼馴染の里花だ。宮成(みやなり)商事のご令嬢」

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