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 古き種族が住まう国・エーデルシュタイン帝国は、この数百年の間に三人目の皇帝を失うことになるかもしれないほどの危機に瀕していた。

「――兄上!」

 晩餐の最中、急に胸を押さえて苦しみだした皇帝の側に、銀灰の髪を振り乱しながら駆け寄ったクラウス・ヴァン・エーデルシュタインは、その肩に手を添えながら「急いで宮廷薬師を!」と控えていた侍従へ叫んだ。

 兄上と呼ばれた美青年――艶めく黒髪と深紅の双眸を持つ、二十代前半ほどの年齢に見える絶世の美貌を持つ青年は、苦しさからか激しく肩を上下に動かしながら、弟を安心させるように彼の手を優しく握る。

「……っ、問題ない。食事を続けよう」
「兄上、お願いです。どうか人間の生贄を貰ってください。このままでは、兄上まで倒れてしまう」

 クラウスの唯一の肉親であり、古代種の王――ディートリヒ・ヴァン・エーデルシュタインは、もう随分と前から、王侯貴族の古代種の中でもほんの一握りのみにしか出ないとされるこの症状に悩まされていた。