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その夜の夕食は、乙女ゲームの攻略対象者の一人である騎士団長が運んできた硬いパンと、野菜のほぼ入っていないスープだった。
紺色の髪と瞳を持つ無口でクールな彼は一言「貴方の両親や家族は無事だ」と温度を感じさせない声で告げると、私の口に噛ませていた布を外して「食事をしろ」と促した。
晩餐も食べていないのだからお腹が空いているずなのに、精神的に参っているせいか、スープをひとくち飲んだだけでも気持ちが悪くなってしまう。
結局ふたくち目も喉を通らず、私は「もう結構です」とそれだけで食事を終えた。
その後は眠る気にもなれなくて、遥か遠い小窓の月明かりを眺めて過ごした。
時刻はもうそろそろ、真夜中の十二時を回ったところだろうか。
色々なことに考えを巡らせながら過ごしていると、カツン、カツンと遠くから石畳を硬質のブーツが踏む音が響き始めた。
足音……? こんな夜中に、誰かしら?