仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「アーゲイド男爵、ご心配をおかけして申し訳ありません。事件に巻き込まれたのは私の不徳の致すところです。フローラ嬢にも多大な不安を与えてしまいました。このまま私に関わるとフローラ嬢にも被害が降りかかる恐れがあります。今日はこのままフローラ嬢を連れてお帰り下さい」
「え?ユーリスさま?」
今帰って来たばかりだというのになにを言い出すのか。居間に入ってきたなり突然そんなことを言ったユーリスにフローラは驚く。
「フローラ嬢は男爵と一緒に自領に帰るがいい」
「え?」
「婚約は解消だ。今すぐここを立ち去れ」
「そんな、ユーリスさま?」
今までにないほど冷たく言うと、信じられないという顔で見つめてきたフローラにユーリスは目を逸らした。
「男爵、フローラ嬢を連れて帰ってくれ。彼女を今まで留めていてすまなかった」
そう言って頭を下げるとユーリスは居間を出て行く。
「ユーリスさま!」
フローラに呼び止められたが振り返らず少し荒々しくドアを閉めると唇を噛み締めその場を去った。

「ユーリスさま……」
今までにない冷たい態度にフローラは困惑してユーリスが出て行ったドアをじっと見つめた。
一度ならず二度までもユーリスに出て行けと言われてしまい、ユーリスにとって自分は邪魔な存在なのかと思うと心が痛かった。
「フローラ、私はお前が心配だ。安全で心安らげる領地に帰ろう」
「お父さま」
そっと手を取り優しく語り掛ける男爵を振り返りフローラは呆然としていた。

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