仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
見つめられたフローラはユーリスと鶏を交互に見て気まずくなってへへっと肩を竦める。
「あ、あの、ユーリスさまお帰りなさい。鶏が逃げ出してしまったので捕まえるお手伝いを……」
尻すぼみになって最後まで言えなかった。
フローラは家で使用人に交じって家畜の世話をしていて鶏を捕まえるのも得意だ。
でも、鶏を捕まえるなど普通の貴族の娘は絶対しない。
平気で鶏を持っているフローラにユーリスは呆れてしまったようだ。
ふうっとため息をついたユーリスがスタスタとフローラの前に立つと鶏をそっと掴み後ろに付いて来たベリルに渡した。
「君がやることじゃない。こういうことは使用人に任せなさい」
「は、はい」
フローラは窘められてしゅんとする。
「うわっとっ!」
後ろでベリルが持たされた鶏が暴れてしまったために大慌てであたふたしている。
焦っているベリルを見たことのなかったユーリスはギョッとして慌てるベリルがおかしくて思わずぷっと吹き出してしまった。
目を細め口角が上がったその顔のなんと美しいことか。
そんなユーリスを初めて見たフローラは思わず魅入ってしまう。
フローラに見られていると気づいてユーリスはふっと笑いを止めたが、その後ろではまだベリルが暴れる鶏に苦戦していた。バサバサとあんなに暴れているのに逃がしそうで逃がさないとはさすがベリルだ。
堪えきれないおかしさにユーリスはフローラと目が合い二人してぷっと笑い出した。
クスクスと静かな笑いだったが初めて二人に和んだ雰囲気をもたらしてくれた。
そんな二人を見てベリルも、マリアやグレイ、セドリックもいつの間にか手を止め微笑ましそうに見ていたのだった。


< 34 / 202 >

この作品をシェア

pagetop