仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
玄関ホールではユーリスが待ち構えていて階段から降りてきたフローラを見上げ目を見開き固まってしまった。
初めて会った時の凛とした雰囲気にアップにした髪型がより大人びて見える。
普段の彼女は少女らしく朗らかなのだが、昨日の鶏を捕まえた彼女とは思えないほどの変わりように、女性とはこうも化けるものなのだと驚いてしまう。

フローラも思わず立ち止まりユーリスを見つめた。
漆黒の礼服に紫のクラバットは華やかさはないが気品があり、凛々しく落ち着いた雰囲気のユーリスにはぴったりで、いつにも増して魅力的だった。そこに白い仮面と手袋が高潔な雰囲気を出している。
お互い数秒見つめ合い、一緒に付いて来たマリアのクスクス笑う声にはっとして、フローラは足早にユーリスの許へと駆け寄る。
「お、お待たせしました、ユーリスさま」
「ああ……」
「なんとお美しい!フローラさま。旦那さまもそう思うでしょう?」
待機していたベリル執事が肘でつんつんと言葉の出ないユーリスの脇腹を突いている。
それを嫌そうに避けたユーリスはゴホンと小さく咳払いをしちらりとフローラを見た後、ふいっと視線を逸らし左手だけをそっと差し出した。
「では行こうか」
視線はあさっての方向に向いてはいるが、エスコートしてくれるのだと気づいてフローラはその手に自分の手を乗せるとなぜか胸がドキドキした。
ちらりとユーリスを見上げると忙しなく瞬きをして頬がほんのり赤くなっているのに気づいて余計に胸がドキンと跳ねた。
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