仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
うれしくてもう一度フローラが顔を上げると右半分隠れた顔が穏やか見おろしていた。
フローラはドキドキする胸を落ち着けるように深呼吸すると音楽に耳を傾けた。
力を抜きユーリスのリードに身を任せると先ほどまでのおぼつかない足取りが軽やかにステップを踏みだす。
綺麗にターンが決まるとフローラは余裕が出てきて楽しくなってきた。
ユーリスに笑顔を見せると彼も微笑んだ気がする。
昨夜初めて見たユーリスの笑顔はとても魅力的だった。
また見たいと思っていたフローラはわずかに目を細め口角が上がったユーリスの表情を食い入るように見つめていると、それに気づいたユーリスはふいっと視線を逸らしてしまった。
曲は終りを迎え、ダンスの足を止めたふたりは周りに倣って礼をする。
楽しかったのに、もう終わってしまった。
一曲踊れば脇に引いて休むかパートナーを変えてまた躍るかなのだが、もっとユーリスと踊っていたかったフローラはなかなかその場から動けない。
ユーリスもその場を動かないでいると、次の曲が始まった。
「あっ、この曲!」
ぱっと顔を上げたフローラは、この曲がユーリスが作曲したものだとすぐにわかった。
フローラの目を輝かせワクワクした表情を見てユーリスはスッと手を上げた。
「もう一曲、よろしいですか、フローラ嬢」
「はい!よろこんで」
ベリルのピアノで聴かせてもらったが、プロの楽団が弾くこの曲はまた重厚で奥深いメロディに胸が躍る。
フローラは心ゆくまで音楽に酔い、ユーリスのリードに任せダンスを楽しんだ。

なんと優雅にうれしそうに踊るのだろう。
自分の作曲した曲で楽しそうに踊るフローラにユーリスはこそばゆい気持ちだったが、時々目が合うとうっとりとした表情で見つめられてつい視線をそらしてしまった。
こんなに間近で見つめられることがめったにないのでどうしても落ち着かない。
仮面のせいで怖がられることが常なのに、フローラは怖くはないんだろうかと不思議でならない。
でも、フローラと踊っていると心はふわふわと温かく、舞踏会のような社交の場が嫌いなユーリスは苦痛だったダンスがこんなに楽しいものだったのだと初めて知った。

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