仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
(そんなに気にすることはないというのに)
ふうっとまたため息をついたときふと思い至る。
(もしや、私がフローラの分もすべて食べてしまったことに実は怒っているとか?……いや、彼女がそんなことで怒るわけないか)
短い付き合いであるがフローラがそんな女性ではないのはわかっている。やはり気まずいだけなのだろう。気の利いた言葉もかけられない自分が歯がゆい。
(どうすればフローラはまた屈託なく笑いかけてくれるのだろう?)
そんな考えに及んだ自分にはっと気づいてユーリスは動揺する。
なぜ、そんなことを思った? 彼女は自分の許から去っていくのに。
ツキンと胸が痛んだ気がして胸を押さえるユーリスの目の前で皇帝がニヤニヤとこちらを見ていたことに気づいてギョッとした。
「な、なに見てるんですか!」
「なに、随分悩ましげにため息を連発してるからおもし……いや、心配で。どうした?悩み事なら私に相談しなさい」
(絶対この人面白がってる)
楽しげに笑いかける皇帝を胡散臭そうに目を細め睨むユーリス。
「フローラ嬢となにかあったか?舞踏会の日はあんなに仲睦ましくダンスを踊っていたからうまくいってると思ったのだが」
「いえ、別に」
ムスッと答えるユーリスは沈んだ声で呟く。
「そろそろ彼女を開放しなければ」
「ん?なにか言ったか?」
「いいえ、なにも言ってません」
ユーリスの小さな呟きは皇帝には聞こえなかった。

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