誘惑の延長線上、君を囲う。
夜が明ける
「佐藤君、近ごろは営業成績か落ちてるんじゃないか?やる気あるのかね?」

「はい、申し訳ありません!来月は目標達成の為にも最善を尽くしま……」

「何度も何度も聞きたくないんだよね、その台詞」

月末、本社に営業成績を送付する前に営業成績が伸び悩んでいる物を一人一人呼び出しては部長の逆鱗に触れなければならない。私、佐藤 琴葉(さとう ことは)は住宅メーカーの営業部勤務である。新築の建売を営業したり、建て替えを勧めたりするが、思うようには成績が伸びない。

「営業に女も男もないんだよ!悔しかったら、仕事取って来るか、寿退社でもしたまえ」

部長は自分のデスクをバンッと力強く右手の手の平で叩いた。右側に置いてあったカップの中のコーヒーが粒になって飛び散る。

「……分かりました、女も男も関係ないとか言いつつも寿退社しろと言って来る矛盾した会社など退職致します!セクハラ、パワハラ、今までありがとうございました!お礼を言う事はそれしか御座いません!」

「な、何だって!」

部長は茹でダコみたいに顔が赤くなり、怒り狂う。もうすぐ決算の時期でもあるから、部下の営業成績は部長にも影響が出てくる。その事もあってか、先月辺りから部長は毎日のように機嫌が悪く、部下にあたりまくりだ。皆、妻帯者の子持ちが多いから辛抱しているみたいだが、私は生憎のおひとり様だから怖いものなんてない。
入って半年、パワハラやセクハラが多く、もういい加減、限界だった。……なので、辞めるのは今日が丁度良いタイミングだった。野次を飛ばし続ける部長、シン……と静まり返っていて、私達には関わりたくない周りの皆を横目にデスクを片付ける。

< 10 / 180 >

この作品をシェア

pagetop