誘惑の延長線上、君を囲う。
「そうですかね?朝イチで顔を出してみたり、私が退勤押す頃に来てみたり、急な仕事の用ではなさげですけど?」

美鈴ちゃんはニヤニヤしながら私に訴える。確かに仕事の事を伝えるにしてもメールや電話で済む話だったから、わざわざ来なくても良かった。美鈴ちゃんの話を総合的に見て期待が膨むが、そんな事はない、絶対に!日下部君が会いに来るとしたら、一夜限りでも男女の関係になった後ろめたさなんじゃないかな?私が誘惑したのだから、もういい加減に割り切ったら良いのに。

「……多分ね、高校時代の話が盛り上がったから、もっと話したいだけなんじゃないかな?私と日下部君はクラス委員や生徒会長とか一緒にやった仲だから。高校時代もね、私は可愛げがないから日下部君には女の子としては見られてなかったの。私、男の子に混ざって遊ぶのも好きだったし、友達も女の子より男の子の方が多かったんだよ」

「あー、上手くはぐらかされた気がする!私は絶対に日下部部長は佐藤さんに気があると思うんだよなぁ……」

何も知らないって、これ程までに残酷なんだな。気があるのだとしたら、高校時代にとっくに付き合っていると思う。ないからこそ、私達は時を経ても、身体の関係があってもこのままなの。

「美鈴ちゃん、もう上がり時間じゃないの?」

「あ、大変!今日は居酒屋バイトが入ってるから急いで行かなきゃ……!」

美鈴ちゃんの上がり時間は16時。バタバタしながら帰り支度をして、店舗を後にした。平日はお店がそんなに混まないから、アルバイトスタッフと私の二人体制。夕方17時から締め作業までの間にもう一人のアルバイトの女の子が来る事になっている。
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